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「先生だけには話すからね」― 子どもの“リストカット”に向き合う支援者のための9つの原則と実践例【児童精神科医が解説】

[2025.04.29]

こんにちは。

江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(児童精神科医 子どものこころ専門医)です。

今回のテーマは、学校や福祉の現場で「子どもから自傷の話を打ち明けられたとき」に、支援者としてどう関わればよいのか、です。

このブログは教育・福祉・医療など、子どもに関わるすべての支援者に向けて書いています。

【目次】

  1. 子どもが「自傷」を打ち明ける瞬間にある意味
  2. 自傷行為とはなにか? 〜臨床的理解〜
  3. 「秘密にしてね」と言われたとき、どうする?
  4. 支援者としての“4つのポイント”
  5. 子どもを中心にした“チーム支援”のススメ
  6. 現場で実際に起きている“最良の支援”4つの実例
  7. 支援者の方へのメッセージ:信頼できる大人の存在
  8. 支援者にとってのセルフケアと限界認識
  9. 今後の実践に活かすための学びと視点
  10. 推奨図書

1. 子どもが「自傷」を打ち明ける瞬間にある意味

「先生、ほんとは誰にも言ってないんだけど…」

「ここだけの話ね。リストカットしてるの」

「親には言わないで。怒られちゃうから…」

こうした言葉を聞いたことのある支援者は少なくないでしょう。

実はこの瞬間――

子どもは「最初の扉」をあなたの前で、そっと開けています。

それは「信じていいのかな」「話しても大丈夫かな」という不安と期待の入り混じった、非常に繊細な心の動きです。

こう話してくれる子どもたちは、決して“かまってほしい”わけでも、“注目されたい”わけでもありません。

むしろ、「知られたくない」「誰にも迷惑かけたくない」という思いが根底にあります。

そして多くの場合、心の奥に大きな不安・孤独・自己否定感が潜んでいます。

そしてこの“最初の語り”をどう受け止めるかが、その後の支援の方向を決めると言っても過言ではありません。

2. 自傷行為とはなにか? 〜臨床的理解〜

「リストカット=自殺したい」ではありません。

実際に子どもが自傷をする背景には、以下のような心理的な動機が多く見られます。

  • 苦しい感情をコントロールするため
  • 怒りや悲しみを自分に向ける“自己罰”
  • 空虚感や現実感の喪失を埋めようとする行為
  • 誰かに気づいてほしいという、非言語的なSOS

自傷は「問題行動」ではなく、“対処行動”であることが多いのです。

ただし、それは危険な手段であり、繰り返されることで依存性や深刻化のリスクを伴います。

だからこそ、支援の第一歩は「否定せず、理解すること」です。

3. 「秘密にしてね」と言われたとき、どうする?

「言わないでね、絶対に」

「バレたら終わりだと思う」

「先生は信じてるから言うけど、他の人には言わないで」

支援者として、最も悩ましい瞬間の一つです。

このとき大切なのは、“約束を守る・破る”の二項対立に陥らないこと。

以下のような対応が、信頼関係を壊さず、子どもの安全も守る道になります。

  • 「話してくれてありがとう。すごく大事なことを話してくれたんだね」
  • 「これから一緒にどうしていくか、ゆっくり考えていこう」
  • 「誰にどこまで話すかは、一緒に決めていいんだよ」

そんなふうに、否定も説得もせず、ただ“気持ちに寄り添う”ことが、子どもとの信頼関係を築く第一歩になります

児童精神科医として、その秘密をどう受け止めるか

診察室で「リストカットしていることを親に言わないで」というお願いに、児童精神科医はどう対応するべきでしょうか?

これは非常に難しい問いです。

医師には守秘義務がある一方で、命に関わる場合には適切な対応をとる責任もあります。

また、子どもの年齢や状態によっては、保護者と共有すべきこともあります。

でも、まず大事なのは「安心して話せる場」を守ること

たとえ最終的に保護者に伝える必要があるとしても、

最初にすべきことは「その子の気持ちを受け止めること」です。

「話してくれてありがとう。よく打ち明けてくれたね」

「あなたのつらさは、先生もちゃんとわかっていたい。でも、ずっと一人で抱えこむのはしんどいよね。お母さんやお父さんに全部じゃなくても、“一部だけ”話してみる方法を一緒に考えようか?」

このように「秘密を守るか、守らないか」という二択ではなく、

子どもの気持ちを尊重しながら、少しずつ周囲とつながっていけるように支える”ことが、児童精神科医に求められる関わり方です。

そして、重要なのは、「秘密を抱えたこの子に、どう関われば安全を守れるか」「どのようにして信頼関係を壊さずに周囲とつなぐか」という視点です。

4. 支援者としての“4つのポイント”

自傷に向き合う支援者にとって、一つの言葉、一つの行動が子どもの回復力に直結することがあります。ここでは、現場で本当に大切な4つのポイントについて、理論と実践の両面から詳しく解説します。

①評価ではなく、受容を優先する

❌「どうしてそんなことしたの?」
✅「しんどかったんだね」「つらかったんだね」

自傷を行った理由をすぐに“問い詰める”対応は、子どもにとって「責められている」と感じさせ、口を閉ざすきっかけになってしまいます。
リストカットのような行動の背景には、自己否定感・感情調整の困難・関係性の不安などが潜んでおり、行動を“言語化できない苦しみの表現”として捉える視点が必要です。

  • 支援者がまずできることは、“意味づけ”ではなく“感情の存在そのもの”を認めること。

  • 「つらかったんだね」と言ってくれる大人の存在は、それだけで“生きていていい”というメッセージになります。

🧠【臨床的視点】🧠
自傷行為は「感情制御機能の代償的手段」であることが多く、支援者の評価的態度は、さらなる抑圧や自責感を引き起こしやすい。

②一人で抱え込まない

「自傷を知った支援者が、誰にも相談できずに孤立してしまう」というのは現場で非常に多く見られる事態です。

  • 特に担任教員や学童保育職員、寮のスタッフなど、子どもと日常的に接する立場の人ほど、「自分がしっかりしないと」「この子の秘密を裏切ってはいけない」と思い込んで、相談や共有が遅れがちになります。

しかし実際には――
子どもの支援は「個人技」ではなく、「チームスポーツ」です。

  • 情報共有の際には、「本人の気持ちを大事にする形で」行うことが原則

  • たとえば「このことは〇〇先生にだけ、相談してもいいかな?」と子どもに確認を取りながら、支援体制を整えていくことが重要です。

💡【実践例】💡

 担任がスクールカウンセラーに「本人が自傷を話してくれたんですが…」と相談。本人の同意を取りながら、段階的に管理職・医療との連携へ発展。
→ 結果として、本人は「自分の話が丁寧に扱われている」と感じ、支援者への信頼感が向上。

③本人を“主語”にする支援

支援の場では「この子にはこうしてあげるべき」「先生たちで決めよう」というように、子どもを“客体化”してしまうことが少なくありません。

しかし、支援とは「されるもの」ではなく、「一緒に創っていくプロセス」です。

  • 支援会議に本人が参加する機会を設ける

  • 本人の希望や不安を「声」として記録し、共有する

  • 「誰にどこまで話していいか」「どんな支援が心地よいか」を、選択させる余地を残す

これは単に本人の“同意”を取るだけではありません。

🧠【エンパワメントの視点】🧠
支援対象者を主語にすることで、「自己決定感」や「回復への主体性」が高まり、再発リスクを抑える効果があります。

💬 例:
「このことをどう伝えていきたいか、一緒に考えよう」
「何か嫌なやり方があったら、教えてね」
「話したくないことは、無理に話さなくていいよ」

④「対応」ではなく、「関係性」を築く

自傷行為への対応を「マニュアル的」に進めようとすると、かえって子どもは「流れ作業のように扱われた」と感じ、信頼関係を失ってしまうことがあります。

  • 自傷行為は、“関係の中で育った傷”であることが多く、回復もまた“関係の中で”進んでいくものです。

  • 大切なのは、「何を言ったか」「どんな行動を取ったか」ではなく、「この人は自分のことを大切にしてくれた」と子どもが感じられるかどうか。

💡【長期的視点】
子どもは支援者の“対応”よりも、“気にかけ続けてくれた関係性”に救われる。

🧠【関係性重視の実践理論】🧠
「安全基地理論(Secure Base)」においても、安心できる大人の存在が、子どもにとっての心理的回復の基盤になります。

補足:ポイントを支える“支援の姿勢”

この4つのポイントは、あくまで「型」ではなく、「姿勢」として日常的に意識していくべきものです。
たとえすべてを完璧にできなくても、「この原則に立ち返る視点を持ち続けること」が、支援の質を支えます。

✅ 傾聴と共感が最優先
✅ 支援者自身が孤立しないこと
✅ 完璧を求めすぎず、誠実な継続を

5,支援者ができること:支援の“仕組みと一貫性”を意識して

自傷行為に向き合うには、「一人でなんとかしようとしない」ことが鉄則です。

学校・福祉・医療――それぞれの立場が違っていても、目指すゴールは一つ。「その子が安心して過ごせる環境をつくること」。

● 視点の違いが支援の幅を広げる 「チームで支える」

  • 教員:学校や人間関係含めた日常の様子
  • 福祉:家庭環境の様子・保護者支援と心理社会的支援と他機関との支援の調整
  • 医療:情緒面や発達の観点、服薬・診断の判断                                                         

支援者同士が支え合い、連携を切らさないためには、
学校・医療・福祉が “網” のように支え合う構造をつくることが重要です。

大切なのは、「分業」ではなく「連携」

それぞれの支援者が、それぞれの現場から、“同じ子ども”を見ていることを忘れてはなりません。

だからこそ、誰か一人が孤立するのではなく、
それぞれがつながり合うことで、“安心の網”を編んでいく必要があるのです。

● どこかが孤立すると支援が崩れる

「医療にまかせたから我々の支援は終了」「学校だけで抱えこむ」…

こうした“線引き”は、子どもをバラバラな支援の中に置き去りにしてしまいます。

● 「関わり続けること」こそ支援

自傷は一度で解決するテーマではありません。むしろ「何度でも話してよい」「戻ってきてよい」という関係が、子どもにとっての心の安全基地になります。

● 「話してくれてありがとう」という姿勢を忘れない

自傷を打ち明けるのは、とても勇気のいることです。

まずは、評価せず、ただ「ありがとう」「ここでよかった」と受け止めることが大切です。

● 「急がない」「勝手に決めない」

本人や家族との対話をせずに“支援体制だけが先走る”ことがないように。

子どもと家族と「一緒に考える」という姿勢が最優先です。

6. 現場で実際に起きている“最良の支援”4つの実例

ここでは、実際にあった“うまくいった支援”のエピソードを4つご紹介します。(架空のケースです)

子どもを中心に置いた支援がどれほど力強いものか

ぜひご自身の現場でも参考にしていただけたら幸いです。

【1】子どもを“支援会議の主役”にした学校の取り組み

ある中学生のケース。リストカットの打ち明けを受けた養護教諭が、担任やスクールカウンセラーと連携し、支援会議を本人同席で実施。

「どの先生に何をどこまで伝えるか」を、子ども自身が決められるよう配慮しました。

本人は涙を浮かべながらも、「初めて自分のことを自分で決められた」と話し、人への信頼感と自尊心が回復し、精神状態は改善していきました。

【2】“見守る関係”を築いた担任の実践

ノートのすみに小さく書かれた「しんどい」の一言を見つけた担任。

無理に話を引き出さず、数週間かけて静かにノートでやりとりを続けました。

子どもは「この先生には言ってもいい」と感じ、ある日、リストカットのことを自ら語り始めたのです。

→ 支援は“聞き出す技術”ではなく、“待つ信頼”。

【3】“秘密”を共有しながら支援につなげた保健室の先生

女子生徒から「絶対内緒でね」と切り出された保健室の先生。すぐには他言せず、「誰にどこまで話そうか、あなたと一緒に考えたい」と伝えました。

生徒は数日後、「じゃあ、〇〇先生には言ってもいい」と自ら教員に打ち明け、相談体制を自ら築いていきました。

→ 「守ってくれた」という実感が、信頼の基盤に。→「孤立させない」ことの積み重ねが、回復への道。

【4】“リスク”を冷静に見極めた管理職の判断

ある高校で、リストカットが発覚。担任は管理職に報告したが、管理職は「本人の希望を聞いてから動こう」と即時対応を控えました。

翌日、スクールカウンセラーが面談。本人の状態が安定しており、緊急性がないと判断され、医療と連携しつつ学校で見守る形に。

→ 「不安」ではなく「事実」で判断する姿勢が、子どもの安心感に。

7. 支援者の方へ:信頼できる大人の存在の重要性

もし、クラスの生徒が自傷をしていたら…。

最初は、驚き・不安・戸惑い・罪悪感――あらゆる感情が押し寄せてくると思います。

でもどうか、責めないでください。

まず「話してくれたこと」に目を向けてください。

子どもが大人に語るのは、決して簡単なことではありません。

それでも「この人なら受け止めてくれるかも」と、わずかな希望を込めて差し出してくれているのです。

子どもが必要としているのは、「完璧な支援者」ではなく、「自分を否定せず、そばにいてくれる大人」です。

8. 支援者にとってのセルフケアと“限界”の認識

支援者として、子どもや保護者の力になりたい――

その思いはとても尊く、大切なものです。

でも、「いい支援をするには、自分が疲弊しないことが前提」です。

● 子どもの「傷」に影響を受けるのは自然なこと

自傷の話に触れれば、誰だって動揺します。

夢に出てくる、頭から離れない、泣きそうになる… そんなときは、心が反応している証拠です。

専門職でも、そういう感情を抱くことは決して恥ずかしいことではありません。

● 一人で抱えない、共有できる場を持つ

  • チーム内での振り返り、ケースカンファレンス
  • 校医やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの専門家の助言を受ける
  • 外部の相談窓口やネットワークを活用する

「あなたが背負わなければ誰が支えるのか?」

そんな言葉が浮かんできたら、一度立ち止まりましょう。

支援は、背負うことではなく、支えること。

そのためには、自分の健康や生活も大切にしてください。

9. 最後に:今後の実践に活かすための視点と学び

このブログをここまで読んでくださった支援者のあなたは、すでに“最良の第一歩”を踏み出している方だと思います。

● 子どもの声を、どこまでも丁寧に聴くこと

子どもは、最初から「助けて」と言えるわけではありません。

ときに沈黙し、ときに怒り、反発し、試すような言動を見せるかもしれません。

それでも、「そのままのあなたで大丈夫だよ」と伝える関わりを積み重ねることが、信頼関係の土台になります。

「どうしてそんなことをしたの?」と問うよりも、

「そんなにしんどかったんだね」と言える関係を目指していくこと。

それは、支援というより*寄り添いの技術”であり、

人間らしい関係づくりの原点となります。

● 一人で抱えず、チームで支援すること

自傷は、家庭・学校・医療、すべてに関わる問題です。

誰か一人の専門職だけで抱え込まず、「子どもと家族を真ん中にしたチーム支援」が必要不可欠です。

・学校:担任・養護教諭・スクールカウンセラーが協働して対応

・福祉:家庭の支援と医療との連携を切らさず継続的に

・医療:診断や治療だけでなく、現場の文脈を理解しフィードバックを丁寧に行う

それぞれの立場で、互いを尊重し合いながら関わることで、子どもが安心して“居られる場所”が増えていくのです。

● 完璧を目指すより、“ずっと関わり続けられる形”を目指すこと

支援の現場では、「あのとき、もっとこうできたかもしれない」と自責の念に駆られることもあります。

でも、大切なのは「完璧な対応」ではなく「誠実な継続」です。

子どもが「この人なら、もう一度話してみようかな」と思える存在でいること。

そのために、自分自身のケアや、相談できる環境づくりも忘れてはなりません。

支援者が孤立しないこと。

それは、子どもを支えるために、何よりも大切な支援と信じています。

10. 推奨図書

書籍・文献(支援の理解と実践に役立つものを選んでみました)

  • 松本俊彦(2020)『自傷・自殺する子どもたち』合同出版
     → 自傷の背景理解と、支援者の在り方に迫った臨床的名著です。何度も読んでます。
  • 松本俊彦(2023)『もしも「死にたい」と言われたら』中公新書
     → 子どもの「死にたい」に向き合うとき、どのように応答すべきかが具体的に書かれています。これも臨床的名著です。
  • 高橋祥友(2016)『自傷行為の理解と支援』岩崎学術出版社
     → 医療・教育・福祉の垣根を越えて協働支援を進めるための知見が網羅されています。定期的に読み返しています。
  • 岩倉拓(2008)『リストカットする少女たち』講談社現代新書
     → 現場の声と統計・研究をもとに、自傷行為の背後にある心の動きが語られます。
  • 広瀬徹也(2021)『こころの支援の教科書』医学書院
     → 実践的な「つながる支援」を学ぶための現場ガイド。支援者の視点からも読み応えあり。少し難しかったですが、奥深い本質的な内容がばかりです。

 

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