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【児童精神科医が解説】「子どもの希望」と「大人の導き」は両立できる?

[2025.05.26]

こんにちは。

江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(児童精神科医 子どものこころ専門医)です。

本日は、子育てや支援のなかで非常によくいただくご相談――「こどもの主体性を尊重すること」と「成長のために導くこと」は両立できるのか?というテーマを、一緒に考えてみたいと思います。

【目次】

  1. 「わかってあげたい」「でも、これでいいの?」

  2. 主体性を大切にする子育てとは?

  3. 本人の意思だけに任せていいのか?

  4. 支援者に必要なのは“ナビゲーター”の視点

  5. 本人の希望=本人の幸せとは限らない

  6. 迷うことは、まっすぐ向き合っている証

  7.  脳科学と心理学から見る「主体性」と「導き」のバランス

  8. 最後に:あなたの“揺らぎ”を、こどもは感じています

  9. 参考文献・出典

1,「わかってあげたい」「でも、これでいいの?」

そんな迷いを感じたことはありませんか?

こどもが「学校行きたくない」と言ったとき。

やりたくないことを避けてばかりいるとき。

気持ちを尊重したいけど、親としてどこまで受け入れたらいいのか…迷いますよね。

2,「主体性を大切にする子育て」がなぜ重視されるのか

ここ数年、子育て支援や教育現場では「こどもの意思を尊重する」「気持ちに寄り添う」という言葉が広まり、多くの親や支援者がこの考え方を取り入れようとしています。

これは決して間違いではありません。

背景には以下のような流れがあります:

  • 児童の権利条約などを通じて「こどもの意見表明権」が尊重されるようになった
  • 自尊感情や自己決定感の育成が、精神的な健康の基盤になるという研究
  • 不登校や情緒的課題の背景に、「気持ちを無視され続けた経験」があるケースが多い

つまり、こどもの声に耳を傾けることは、心の回復や成長の出発点でもあるのです。

3,本人の意思だけに任せていいのか?

ここで立ち止まって考えたいのが、「主体性の尊重」には“前提条件”があるということです。

こどもはまだ発達の途中です。

判断力、予測力、感情のコントロールなどの機能は年齢とともに育っていきます。特に思春期以前のこどもは、「いま気持ちがラクかどうか」で物事を選びがちです。

たとえば――

  • 「朝がつらいから学校に行かない」
  • 「苦手なことはやりたくない」
  • 「好きなゲームに没頭して、生活リズムが崩れている」

こうした行動をそのまま“本人の希望”として尊重することが、その子の未来にとって本当に良いか?

ここに、支援者や親としての葛藤があります。

4,支える大人に必要なのは“ナビゲーター”の視点

私たち大人に求められるのは、「聴く」と「導く」の両立です。

こどもの声に寄り添いながら、必要なときには方向性を示す――それは矛盾ではなく、発達支援における“成熟したかかわり”だと私は思います。

■ 一貫性のあるルールが“安心”を育てる

ルールを与えることは、「支配」ではありません。

こどもにとっての“安心の枠”を作ることです。

「何がOKで、何がNGか」が曖昧な世界では、大人も不安ですが、こどもにとってはもっとストレスです。

ただしルールには条件があります:

  • 発達段階や特性に応じている
  • 理由や目的が説明できる
  • 一貫性がある(その場しのぎでない)

■ 否定せず、選択肢を“共に探す”対話を

「ダメなものはダメ」とだけ言われても、こどもは納得しません。

「そう思ったんだね」とまず気持ちを受け止めてから、

「じゃあ、どうしたら○○できそう?」と選択肢を一緒に探る。

この関わりが、主体性を損なわずに成長を促すかかわりになります。

5,本人の希望=本人の幸せ、とは限らない

これは支援の現場でも最も難しい部分の一つです。

本人の意思を最大限に尊重した結果、

  • 社会的孤立が深まってしまった
  • 昼夜逆転などで体調を崩した
  • 家族関係が崩れた

こうした事例は実際に少なくありません。

だからこそ、「本人の今の希望」ではなく、「将来の幸せ」を見据えたかかわりが必要です。

6,「迷う」ことは、まっすぐ向き合っている証

「どこまで受け止めるか」

「どこから導くべきか」

このバランスに正解はありません。

でも、その“ゆれ”があるということ自体が、真剣に子どもと向き合っている証拠です。

迷いながらも一緒に考えてくれる大人の存在こそが、こどもにとって最も大きな支えになります。

7. 脳科学と心理学から見る「主体性」と「導き」のバランス

子どもと関わる際に迷いが生じる背景に関して、「脳の発達段階」「自己決定感(autonomy)」に関する心理学的知見があります。

■ 子どもの脳は「前頭前野」がまだ未成熟

こども、とくに小学生から思春期にかけての脳は、判断・計画・抑制・見通しなどを司る前頭前野(前頭葉の一部)が、まだ発達の途中にあります。

この部分は「ブレーキの脳」とも言われ、大人が当たり前のようにできる「我慢する」「先を見通す」「自分をコントロールする」といった力を、こどもはまだ十分に持ち合わせていません。

そのため――

  • 「今この瞬間の気持ち」に強く左右される

  • 「あとでどうなるか」を想像するのが苦手

  • 「嫌なことを避ける選択」を繰り返しやすい

という行動が、自然に起こってくるのです。

「気持ちを尊重する」ことと、「未来を考える手助けをする」ことの両立が大切なのは、この脳の構造的な理由からも説明できます。

■ 心理学が示す「選択肢のある環境」の重要性

心理学的には、「強制されるよりも、自分で選んだことのほうが意欲を持ちやすく、定着しやすい」という研究結果が数多くあります。

これは「自己決定理論(Self-Determination Theory)」という考え方にもとづいており、以下の3要素が満たされることで、子どもも大人も健やかな成長が促されるとされています:

  1. 自律性(autonomy):自分で選べている感覚

  2. 有能感(competence):できる!という実感

  3. 関係性(relatedness):誰かとつながっている安心感

つまり――

  • 大人が一方的に決めてしまうと、自律性が損なわれ

  • 難しすぎる課題ばかりだと、有能感が育たず

  • 怒られてばかりだと、関係性も崩れてしまう

だからこそ、「選ばせながら導く」「無理のないチャレンジを設定する」「関係性のなかで支える」という姿勢が大切になります。

■ 支援の目的は「脳とこころの成熟を待つこと」

児童精神科医として感じるのは、子どもの「今の状態」を“そのまま受け入れる”だけでは足りない、ということです。

本当に必要なのは、その子の発達段階を見極めたうえで――

  • 今はできなくても「成長すればできるようになる」と信じて待つ

  • 発達の“助走期間”にふさわしい支援を、無理なく用意する

  • 成功体験と小さな達成を繰り返し、「脳にとってのごほうび」を積み重ねる

といった、“成長のリズム”に寄り添った関わり方です。

「今できないからダメ」ではなく、「今はできなくて当たり前。でも一緒に準備しようね」という姿勢こそが、最も専門的な支援になると私は考えています。

8,最後に:あなたの“揺らぎ”を、こどもは感じています

子育てにも支援にも、マニュアルはありません。

でも、「本人の気持ちを大切にすること」と「成長のために導くこと」を両立しようとする姿勢こそが、こどもに“安心して育つ力”を与える土台になると私は信じています

9,【参考文献・出典】

  1. Blakemore, S-J. (2012).
    Development of the social brain in adolescence.
    Journal of the Royal Society of Medicine, 105(3), 111–116.
    → 前頭前野の発達が思春期にどのように進行するかを詳細に解説。児童精神科医なら全員熟読して欲しい素晴らしい内容です

  2. Casey, B. J., Jones, R. M., & Hare, T. A. (2008).
    The adolescent brain.
    Annals of the New York Academy of Sciences, 1124(1), 111–126.
    → 思春期の衝動性と抑制制御の未熟さに関する基礎研究。難しい内容もありますが、勉強になります。

  3. 小泉英明(2022)
    『脳の発達と教育』 東京大学出版会
    → 小児期・思春期の脳の成長と学習、行動面の関係をわかりやすく解説。勉強になりました。私の臨床の基礎になっています。

  4. Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000).
    The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior.
    Psychological Inquiry, 11(4), 227–268.
    → 自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)の基礎理論と3要素(自律性・有能感・関係性)を解説。私の研修医時代に何度も読みました。

  5. Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017).
    Self-Determination Theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness.
    Guilford Press.
    → 自己決定理論の名著。動機づけと支援のあり方の実践に役立つ内容。一番影響を受けました。

  6. 渡部達也・佐藤達哉 編(2016)
    『自己決定理論と教育・子育て支援』 新曜社
    → 日本の教育現場や子育て支援におけるSDTの実践応用を紹介。大いに参考になります。

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