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『学校に行きたくない』その言葉の裏にあるもの|児童精神科医が脳科学、心理学の視点で解説します

[2025.05.23]

こんにちは。

江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(精神科専門医/子どものこころ専門医)です。

今回は、児童精神科外来でとてもよく耳にする言葉、「学校に行きたくない」というテーマについて、専門的な視点から掘り下げてみたいと思います。

【目次】

  1. 「学校に行きたくない」は“こころのSOS”

  2. 背景にある多様な要因

  3. その子の“言葉”に耳をすます

  4. 「まず1日休ませる」は甘やかしではない

  5. 「逃げ癖をつけない」より大切なこと

  6. 「登校刺激」とは?その意義と使い方のポイント

  7. 専門的視点:脳科学・心理学から見た“登校しぶり”

  8. 保護者・支援者にできること

  9. まとめ ― “学校に行けること”より、“生きやすさ”を目指して

  10. 参考文献・書籍

1. 「学校に行きたくない」は“こころのSOS”

子どもが「学校に行きたくない」と口にしたとき、多くの保護者の方は不安になります。

「甘えているのかな?」「怠け癖がついたらどうしよう」といった心配も当然です。

しかし、子どもたちがそう話すとき、多くの場合、背後に何らかのストレスや心理的負荷が隠れています。

それは「誰にも言えないけれど、苦しい」という“こころのSOS”であることが多いのです。

2. 背景にある多様な要因

学校に行きたくない理由は、一つではありません。代表的な背景をいくつか挙げてみましょう。

● 対人関係のトラブル

友人からのいじめ、無視、仲間外れなどは、最もよくある理由の一つです。

とくに「明確ないじめ」でなくても、「なんとなく居場所がない」「誰とも話さない昼休みがつらい」などの“関係の薄さ”がストレスになることもあります。

● 教室の環境ストレス

音や光、におい、ざわざわした空間に敏感な子は、教室にいること自体が苦痛になります。

発達特性 「ASD(自閉症スペクトラム症)やADHD(多動性衝動性注意欠陥症)など」をもつ子に多く見られます。

● 学習に対する不安

「勉強についていけない」「先生の言っていることがわからない」「テストが怖い」といった学習不安も、登校しぶりの一因です。

● 家庭環境や親子関係のストレス

家庭内の不和、親の体調不良、きょうだい関係の葛藤など、学校とは無関係に見えることが、子どもにとっての登校困難につながることもあります。

3. その子の“言葉”に耳をすます

「学校に行きたくない」と言っている子どもは、必ずしも原因をはっきり言語化できるわけではありません。

とくに小学生のうちは、自分の感情をうまく説明できず、

「なんとなく嫌」「お腹が痛い」「足が動かない」といった身体症状として現れることもあります。

私たち大人がすべきことは、

原因を無理に聞き出すことではなく、「話してもいい」「わかってくれるかも」と思える安心感を与えることです。

4. 「まず1日休ませる」は甘やかしではない

「1日でも休ませたら、ずっと行かなくなるのでは」と心配される保護者の方も多くいます。

しかし、疲れきった子どもに無理やり登校を強いることは、かえって悪化を招くことがあります。

特に抑うつ状態がある場合は、朝の支度すらできず、涙が出てくるというケースも少なくありません。

登校渋りが出たとき、「一度立ち止まって整える時間をとる」ことは、回復の第一歩となるのです。

5. 「逃げ癖をつけない」より大切なこと

大人が「甘やかしてはならない」と思う背景には、“逃げ癖がつく”という懸念があります。

ですが、「学校を休む=すぐ逃げる」ではありません。

大切なのは、「休む」ことと「投げ出す」ことの違いを、私たち大人が正しく理解することです。

短期的には休むことでエネルギーを取り戻し、中長期的には自分の意思で「一歩を踏み出す力」を育てることが重要なのです。

6.「登校刺激」とは?その意義と使い方のポイント

登校刺激とは、「学校に再び足を運べるようになること」を目指して、子どもが再び学校と少しずつ接点を持てるように促す関わりのことです。

これは決して「無理やり学校に行かせる」ということではありません。むしろ、子どもの心身の回復状況に応じて、段階的に“行ける感覚”を育てていく支援方法です。

● 登校刺激の基本的な考え方

不登校や登校しぶりが続いたあと、再登校のプロセスには慎重な配慮が必要です。

保護者が焦って「明日から朝から学校を行ってもらいますからね!」と一足飛びに戻そうとすると、逆に再発や不信感を招くことがあります。

登校刺激では、次のような“小さな一歩”から始めることが一般的です。

  • 朝、制服に着替えるだけ
  • 学校の近くまで散歩する
  • 放課後に教室を見に行く
  • 保健室や別室登校からスタートする
  • 好きな授業1コマだけ出てみる
  • 週に1回、短時間だけ登校する など

子ども自身が「これならできるかも」と思えるレベルで、成功体験を積んでいくことが大切です。

● 子どもに合わせた“段階づくり”が重要

登校刺激を行う際は、子どもの様子を見ながら段階を細かく設定することがカギになります。

無理をさせず、しかし「少しずつできた」を実感できるように支援の強さを調整します。

例)

  • 「家で1時間だけ勉強してみよう」
  • 「週1回だけ先生と放課後に話してみよう」
  • 「お昼休みだけ学校で過ごしてみよう」

このように、「行けなかった」ではなく「今日はここまでできた」という視点で関わることが、子どもの自己効力感を育てます。

● 誰のための登校刺激かを考える

重要なのは、「子どものための支援」であるべき、ということです。

時に、大人の「そろそろ戻らせなければ」という焦りが、子どもの心身の準備を置き去りにしてしまうことがあります。

支援の方向性に迷ったときには、次の視点を確認してみてください:

  • 本人が少しでも前向きな気持ちを持てているか?
  • 「やってみたい/やってもいい」と思えるか?
  • 大人の“安心感”のために急かしていないか?

登校刺激は、「今、学校に戻る」ことがゴールではなく、「自分らしく過ごせる未来を目指すプロセス」であることを忘れてはなりません。

● 医療・心理の専門職と連携して行う意義

登校刺激を成功させるためには、医療・心理・学校がチームで情報共有しながら、無理のない支援設計を組み立てていくことが非常に有効です。

児童精神科の外来では、子どもの心理状態や発達特性、体調面を評価しながら、「どの程度の刺激が適切か」を判断し、家庭や学校と共有する役割も担っております。

不登校の背景には、発達障害、うつ症状、起立性調節障害など、医学的な配慮が必要な状態が隠れていることも多いため、児童精神科医、小児科医の関与が欠かせません。

7. 専門的視点:脳科学・心理学から見た“登校しぶり”

近年、脳科学・心理学の分野では、「登校しぶり」や「不登校」は単なる行動の問題ではなく、脳のストレス反応や未熟な感情制御と密接に関係していることがわかってきています。

● 扁桃体の過活動

不安や恐怖に関係する脳部位「扁桃体」が過剰に反応しやすい子は、登校そのものを脅威として感じやすい傾向があります。

● 前頭前野の発達と自己制御

「嫌だけど行かなきゃいけない」という自己抑制をつかさどる前頭前野は、発達段階においてまだ未熟であり、思考より感情が優位になりやすいのです。

● 感覚過敏と神経系の興奮

発達特性を持つ子どもは、視覚・聴覚などの感覚刺激に過敏なことがあり、教室という刺激の多い環境が慢性的な神経系の疲労を引き起こすこともあります。

こうした生物学的な背景があることを理解することで、

「本人の努力不足」とは違う次元の支援が必要だと見えてきます。

8. 保護者・支援者にできること

● 無理に理由を聞かず、「あなたの気持ちは大切だよ」と伝える

子どもが言葉にできるまで待ち、「わかろうとする姿勢」を示すことが、第一歩です。

● 休息の“質”を整える

ただ休ませるのではなく、「眠る・食べる・身体を動かす」といった基本的な生活リズムを整えることも、回復への支えになります。

● チームで支える

担任の先生、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、医師、心理師、そして家族。

一人で抱え込まず、チーム支援を構築することが、子どもの安心につながります。

9.まとめ ― “学校に行けること”より、“生きやすさ”を目指して

学校は子どもにとって重要な学びの場です。

しかし、それ以上に大切なのは、「自分の気持ちを尊重してもらえる経験」です。

「学校に行きたくない」と話せたその勇気に、耳を傾けてくれる大人がいること。

それこそが、子どもにとっての心の支えになります。

今、目の前でつらさを抱える子どもがいたら、

どうか「登校すること」そのものよりも、「回復と再出発のための土台を一緒に整える」ことに目を向けてください。

10,【参考文献・書籍】

  1. 子どものこころ診療ネットワーク監修『不登校・ひきこもりの理解と支援』金剛出版→児童精神科医、支援者の必読本。是非読んで欲しいです。
  2. 村井俊哉『脳・こころ・教育』岩波新書  
  3. 日本小児心身医学会「小児心身症診療ガイドライン」

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