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『学校行きたくない』『ゲーム・スマホをやめたくない』と言う子の希望、どこまで尊重する? ― 「子どもの気持ち」と「大人の導き」のバランスを児童精神科医が解説

[2025.12.07]

こんにちは。
江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(児童精神科医・子どものこころ専門医)です。

診察室では、保護者の方からこんなご相談を本当によくいただきます。

  • 『学校行きたくない』と言われたとき、どこまで受け入れていいのか分かりません

  • ゲームやスマホを、どこまで許したらいいのか毎日迷います

  • 子どもの気持ちを尊重したいけれど、このままで将来大丈夫なのか不安です

子どもの「希望」や「主体性」を大事にしたい。
一方で、大人として「成長のために必要なこと」も伝えたい。

この2つのあいだで揺れるのは、とても自然なことです。
このブログでは、

「子どもの希望を尊重すること」と「大人が導くこと」は、どうすれば両立できるのか? とのテーマで

  • 不登校(学校行きたくない)

  • ゲーム・スマホの使い方

という具体的な場面も交えながら、脳科学と心理学の視点から一緒に考えていきます。

【目次】

  1. 『学校行きたくない』『ゲームだけしていたい』と言われたとき、何が起きている?

  2. 「子どもの気持ちを尊重したい」と「でもこれでいいの?」のあいだで揺れる理由

  3. 子どもの希望を尊重しつつ導くための3ステップ

    • 3-1. 「本音を言えたこと」をまず評価する

    • 3-2. 「今ラク」と「将来ラク」を一緒に言葉にする

    • 3-3. 最後の「安全の枠」は大人が引いてあげる

  4. 脳科学から見た「今の気持ちだけで決めてしまいやすい」理由

  5. 心理学(自己決定理論)が教える“選ばせながら導く”関わり方

  6. 本人の希望=本人の幸せとは限らないときにどうするか

  7. 迷うことは、まっすぐ向き合っている証 ― 支援者・親へのメッセージ

  8. まとめ:完璧な答えより、「一緒に悩んでくれる大人」が子どもの力になる

  9. 参考文献・出典

1. 『学校行きたくない』『ゲームだけしていたい』と言われたとき、何が起きている?

まず、日常でよくある場面をイメージしてみましょう。

  • 朝になると、布団の中で「今日も学校行きたくない…」と泣き出す

  • 行かなきゃいけないのは分かってるけど、体が動かない」と訴える

  • 宿題や勉強に手がつかず、気づいたらゲームやスマホばかり触っている

  • 「もう学校のことは考えたくない。ゲームしてるときだけが楽しい」と話す

このとき、子どもの内側では、

  • 学校への不安・疲れ・怖さ

  • 勉強や友人関係のつまずき

  • 「どうせ自分なんて」という自己評価の低下

など、さまざまな感情が渦巻いていることが少なくありません。

◆ 親の中に浮かびやすい2つの思い

そんな子どもを前にすると、多くの親御さんは同時に、こんな2つの思いを抱えます。

  • ① 子どもの気持ちを分かってあげたい

    • 「つらいのは本当なんだろうな」

    • 「無理やり連れて行くのはかわいそう」

  • ② でも、このままでいいのか不安になる

    • 「ずっと休ませていて、本当に大丈夫?」

    • 「ゲーム三昧で生活リズムが崩れて、将来困らないだろうか」

この「①共感したい」と「②将来が心配」という2つの気持ちがぶつかり合うと、
親のこころも疲れ、迷いが深くなっていきます。

2. 「子どもの気持ちを尊重したい」と「でもこれでいいの?」のあいだで揺れる理由

ここ数年、

  • 「子どもの意思を尊重する」

  • 「気持ちに寄り添う子育て」

というキーワードが、教育や子育ての世界でよく語られるようになりました。

◆ 背景にある大きな流れ

この考え方の背景には、たとえば次のような変化があります。

  • 児童の権利条約などを通じて、子どもの「意見表明権」が重視されるようになった

  • 自尊感情や自己決定感が、精神的な健康の基盤になると多くの研究で示された

  • 不登校や情緒の問題の背景に、「気持ちを無視されてきた経験」があるケースが多い

つまり、

子どもの声に耳を傾けることは、
決して「甘やかし」ではなく、心の回復と成長の大前提

だと言えます。

一方で、現場の親や先生、支援者はこんな不安も抱えています。

  • 「全部希望を叶えていたら、社会に出たとき困らないかな」

  • 「嫌なことから逃げ続けるクセがついてしまわないか心配」

  • 「どこまで本人に任せて、どこから大人が線を引くべきなのか…」

この「尊重したい」と「心配」のあいだで揺れる感覚こそが、
今回のテーマの核心部分です。

3. 子どもの希望を尊重しつつ導くための3ステップ

私が現場の中でお伝えしているのは、

『「聴く」と「導く」を同時にあきらめない関わり』です。

そのための具体的なステップを、3つに整理してみます。

ステップ① 「本音を言えたこと」をまず評価する

最初の一歩は、とてもシンプルです。

「学校行きたくない」と、ちゃんと言えたことを評価する

ことです。

■ こんな声かけから始めてみる

  • 「行きたくないって、言葉にしてくれてありがとう」

  • 「つらい気持ちを、ちゃんと教えてくれてうれしいよ」

  • 「黙って我慢して倒れちゃうより、ずっといいよ」

たとえ親としては「どうしても休ませ続けるわけには…」と思っていても、
最初のひとこと目では“気持ちへの理解”を優先します。

これは、ゲーム・スマホの場面でも同じです。

  • 「ゲームしてるときが一番ホッとするんだね」

  • 「スマホいじってると、つらいこと忘れられるんだね」

と、一度「そう感じている事実」を受け止めることが、
その後の対話の土台になります。

 ステップ② 「今ラク」と「将来ラク」を一緒に言葉にする

次のステップでは、時間軸を少し先に伸ばします。

■ 一緒に考えたい問い
  • 今ラクな選び方と、将来ラクな選び方って、同じかな?それとも違うかな?」

  • 「もし半年後・1年後の自分がここに来たとしたら、今の自分にどんなアドバイスしそう?」

こう問いかけることで、

  • 「今この瞬間のつらさ」

  • 「少し先の自分の姿」

の両方を、子ども自身がゆっくり考え始めます。

■ 不登校の場面での対話の例
  • 「今は、学校を考えるだけでしんどいよね」

  • 「もし半年後の○○さんがここに来たとしたら、今のお休みをどう感じてるかな?」

  • 「“あのとき、少しずつ準備してくれて助かった”って思うかな?“もっと休ませてほしかった”って思うかな?」

■ ゲーム・スマホの場面での対話の例
  • 「ゲームしてるときだけは、嫌なことを忘れられるんだよね」

  • 「でも、やめようとしたときすごくイライラしたり、寝る時間が遅くなって困ることもあるよね」

  • 「“今楽しい”と“明日がラク”は、どんなバランスがいいと思う?」

このように、

「今を守るための希望」と
「未来を守るための選択」を、子ども自身と言葉にしていく

ことが大切です。

ステップ③ 最後の「安全の枠」は大人が引いてあげる

そして最後に、

「安全のライン」を決めるのは大人の役割

です。

ここでいう「安全」とは、

  • 心身の健康(睡眠・食事・体調)

  • 学校や社会とのつながり(完全な孤立を避ける)

  • 家族関係(暴力や暴言で破綻しない範囲)

などを含みます。

■ 一貫したルール=安心の枠

ルールを決めることは「支配」ではなく、
子どもにとっての「安心できる枠組み」をつくることです。

  • 「ゲームは夜◯時まで」

  • 「学校はまず週◯日は保健室からチャレンジする」

  • 「昼夜逆転になりそうなときは、親が声をかけて調整する」

など、家庭ごとに具体的なラインを設定します。

ポイントは、

  1. 子どもの発達段階や特性に合わせる

  2. そのルールの「理由」をきちんと説明できる

  3. 親の気分ではなく、一貫性をもって続ける

という3つです。

「あなたの希望を大事にしているからこそ、
将来のあなたが困らないように、この線だけは大人が引くね」

というメッセージを、じわじわと伝えていくイメージです。

4. 脳科学から見た「今の気持ちだけで決めてしまいやすい」理由

ここから少し、脳の話をします。
子どもと関わっていると、どうしても

  • 「なんで分かってくれないの?」

  • 「この先どうなるか、少し考えれば分かるはずなのに…」

と感じてしまう場面があります。

しかし、脳科学の研究では、

子どもの脳は、そもそも「先の見通し」や「ブレーキ」をかける機能が、まだ未熟

だということがはっきり示されています。

◆ 未成熟な「前頭前野」― ブレーキ役が育っている途中

判断・計画・抑制・見通しなどを担う「前頭前野」は、
思春期から青年期にかけて、ゆっくり発達していきます。

そのため子どもは、

  • 「今この瞬間の気持ち」に強く左右される

  • 「あとでどうなるか」を想像するのが苦手

  • 「嫌なことを避ける」選択を繰り返しやすい

という特徴を持っています。

これは「性格が弱い」「根性がない」からではなく、
脳の発達段階として自然な姿です。

◆ ゲーム・スマホと「報酬系」の関係

ゲームやSNS、動画視聴などは、
脳内の「報酬系」と呼ばれる回路(ドーパミンなど)を強く刺激します。

  • 短時間で「楽しい」「スッキリする」という感覚が得られる

  • 次の報酬(レベルアップ、通知、いいね)をすぐに欲しくなる

こうした刺激に対して、
「ちょっと待とう」「今日はこの辺でやめておこう」とブレーキをかけるには、
やはり前頭前野の働きが必要になります。

つまり、
「やめられない」のは意思の弱さではなく、脳の仕組みの影響を受けている部分も大きい
ということです。

だからこそ、子どもだけに任せるのではなく、
大人が一緒に“使い方のルール”を考える必要があるのです。

5. 心理学(自己決定理論)が教える“選ばせながら導く”関わり方

心理学の分野には、
「自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)」という考え方があります。

これは、

人が健やかに成長するために必要な3つの基本的欲求

を示した理論です。

◆ 自己決定理論が示す3つの基本欲求

  1. 自律性(Autonomy)

    • 自分で選べている感覚

    • 「やらされている」より「自分で決めた」と感じられる状態

  2. 有能感(Competence)

    • 「できた」「少し成長した」と感じられる感覚

    • 失敗ばかりではなく、適度な成功体験がある

  3. 関係性(Relatedness)

    • 誰かとつながっている安心感

    • 分かってくれる人がいる、受け止めてくれる人がいるという感覚

この3つが満たされやすい環境で、人は意欲を持ちやすくなります。

◆ 「全部大人が決める」も、「全部子どもに任せる」も、どちらも極端

  • 大人が一方的にすべて決めてしまうと…
    → 自律性が損なわれ、反発や無力感につながりやすくなります。

  • 逆に、すべてを子どもの希望に任せてしまうと…
    → 失敗体験や混乱が増え、有能感も育ちにくくなります。

だからこそ、

「選択肢を提示したうえで、子どもに選ばせる」
「無理のないチャレンジを一緒に組み立てる」

という関わり方が重要になります。

◆ 不登校の場面での具体例

  • 「今週は、
    ①完全に休む
    ②保健室だけ行く
    ③午後の一時間だけ行く
    の中から、一緒に選んでみようか」

  • 「来週どうするかは、今週の感覚を聞きながら、また一緒に考えよう」

◆ ゲーム・スマホの場面での具体例

  • 「平日は◯時間、休日は◯時間までならOKにしようか」

  • 「テスト前の1週間だけ、時間を少しだけ短くしてみるチャレンジをしてみる?」

  • 「ゲームの前に、まずは宿題を◯分だけ一緒にやってみよう」

このように、
“選ばせながら導く”関わり方が、
自律性・有能感・関係性の3つを同時に支えていきます。

6. 本人の希望=本人の幸せとは限らないときにどうするか

支援の現場で難しいのは、

「本人の今の希望」と「本人の将来の幸せ」が、必ずしも一致しない

という場面です。

◆ よくある「行き詰まりのパターン」

  • 本人の希望を尊重し続けた結果…

    • 学校や社会との距離が広がり、孤立が深まってしまう

    • 昼夜逆転で生活リズムが崩れ、体調やこころの状態が悪化する

    • 家庭内での衝突が増え、親子関係が傷ついてしまう

このようなとき、大人はどうすればよいのでしょうか。

◆ 「本人の今の希望」だけでなく、「将来の本人の視点」を一緒に想像する

  • 「今の○○くんの希望は、よく分かったよ」

  • 「もう少し先の○○くんは、どう思うかな?」

    • 半年後

    • 1年後

    • 高校生・大人になった自分

「そのときの自分が、“あのときこうしてくれて助かった”と思える選び方って、どんな形だろう?」

という質問を、ゆっくり一緒に考えます。

◆ 大人の中で整理しておきたい視点

  • 「今の本人の気持ちを守ること」

  • 「将来の本人が社会で生きやすいようにすること」

  • 「家族全体が壊れないようにすること」

これらを、「どれかひとつだけ」ではなく、全体のバランスとして考えることが大切です。

そのうえで、

「このラインだけは、大人として守らせてほしい」

という最低限の枠を、
できるだけ丁寧に言葉にして伝えていきます。

7. 迷うことは、まっすぐ向き合っている証 ― 支援者・親へのメッセージ

ここまで読んでくださった方は、おそらく日々、

  • 子どもの気持ちに耳を澄まし

  • 将来を心配し

  • どう関わるのが一番よいのか悩み続けている

そんな、真剣な大人だと思います。

私は診察室で、よくこんなお話をします。

「迷う」ということは、
子どものことを本気で大切に思っている証拠です。

  • 一方的に押し付けるだけなら、迷いは少ないかもしれません。

  • 逆に、完全に放り出してしまうなら、それも迷いは少ないかもしれません。

でも、

  • 子どもの声を聴きながら

  • 子どもの将来も見据えながら

  • 自分の気持ちや限界とも向き合いながら

それでも手を離さない大人は、どうしても「揺れ」や「葛藤」を抱えることになります。

その「揺らぎ」こそが、
子どもにとってのいちばんの安全基地になることも多いのです。

8. まとめ:完璧な答えより、「一緒に悩んでくれる大人」が子どもの力になる

最後に、ポイントを簡単にまとめます。

◆ 今日のブログのまとめ

  • 子どもが「学校行きたくない」「ゲーム・スマホをやめたくない」と言うとき、
    そこにはリアルなつらさや不安が隠れていることが多い

  • 子どもの主体性や希望を尊重することは、心の回復と成長にとって非常に重要

  • しかし、「本人の今の希望」と「将来の幸せ」がズレてしまうこともある

  • そのとき大人にできるのは、

    1. 本音を言えたことをしっかり評価する

    2. 「今ラク」と「将来ラク」を一緒に言葉にする

    3. 最低限の「安全の枠」は、大人が一貫して引いてあげる

  • 脳科学的には、

    • 子どもの前頭前野(ブレーキ役)はまだ発達途中

    • ゲーム・スマホは報酬系を強く刺激し、「やめにくく」なりやすい

  • 心理学的には、

    • 自律性・有能感・関係性の3つを支える「選ばせながら導く」関わりが大切

そして何よりも、

完璧な正解を出すことより、
子どもと一緒に悩み続けてくれる大人の存在そのものが、
子どもにとって何よりの支えになる

と、私は臨床の現場で感じています。

もし今、目の前の子どもの希望と、大人としての不安の間で揺れている方がいたら
その揺れを、「ダメな親だから」と責めずに、

「ここまで真剣に考えている自分」を、どうか少しだけねぎらってあげてください。

児童精神科医として、そんな大人の姿を、私は心から尊敬しています。

9. 参考文献・出典

※専門職や支援者の方向けに、本文の背景となっている主な文献を挙げておきます。

  • Blakemore, S-J. (2012).
    Development of the social brain in adolescence. Journal of the Royal Society of Medicine, 105(3), 111–116.
    → 思春期の社会脳・前頭前野の発達についての総説。思春期支援を考えるうえで土台になる論文です。

  • Casey, B. J., Jones, R. M., & Hare, T. A. (2008).
    The adolescent brain. Annals of the New York Academy of Sciences, 1124(1), 111–126.
    → 衝動性や抑制機能の未熟さと、思春期脳の特徴についてのレビュー。

  • 小泉英明(2022)
    『脳の発達と教育』東京大学出版会
    → 小児期から思春期にかけての脳の成熟と、学習・行動との関連を分かりやすく解説した一冊。臨床のイメージ作りに役立ちます。

  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000).
    The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227–268.
    → 自己決定理論の基礎となる論文。自律性・有能感・関係性という3要素の整理がされています。

  • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017).
    Self-Determination Theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. Guilford Press.
    → 自己決定理論の決定版的著書。動機づけや発達支援の実践を考える際の大きな枠組みになります。

  • 渡部達也・佐藤達哉 編(2016)
    『自己決定理論と教育・子育て支援』新曜社
    → 日本の教育・子育て支援の現場で、自己決定理論をどう活かすかを具体的に紹介した本。支援者の方にもおすすめです。

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