『学校行きたくない』『ゲーム・スマホをやめたくない』と言う子の希望、どこまで尊重する? ― 「子どもの気持ち」と「大人の導き」のバランスを児童精神科医が解説
こんにちは。
江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(児童精神科医・子どものこころ専門医)です。
診察室では、保護者の方からこんなご相談を本当によくいただきます。
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「『学校行きたくない』と言われたとき、どこまで受け入れていいのか分かりません」
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「ゲームやスマホを、どこまで許したらいいのか毎日迷います」
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「子どもの気持ちを尊重したいけれど、このままで将来大丈夫なのか不安です」
子どもの「希望」や「主体性」を大事にしたい。
一方で、大人として「成長のために必要なこと」も伝えたい。
この2つのあいだで揺れるのは、とても自然なことです。
このブログでは、
「子どもの希望を尊重すること」と「大人が導くこと」は、どうすれば両立できるのか? とのテーマで
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不登校(学校行きたくない)
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ゲーム・スマホの使い方
という具体的な場面も交えながら、脳科学と心理学の視点から一緒に考えていきます。
【目次】
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3-1. 「本音を言えたこと」をまず評価する
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3-2. 「今ラク」と「将来ラク」を一緒に言葉にする
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3-3. 最後の「安全の枠」は大人が引いてあげる
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1. 『学校行きたくない』『ゲームだけしていたい』と言われたとき、何が起きている?
まず、日常でよくある場面をイメージしてみましょう。
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朝になると、布団の中で「今日も学校行きたくない…」と泣き出す
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「行かなきゃいけないのは分かってるけど、体が動かない」と訴える
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宿題や勉強に手がつかず、気づいたらゲームやスマホばかり触っている
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「もう学校のことは考えたくない。ゲームしてるときだけが楽しい」と話す
このとき、子どもの内側では、
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学校への不安・疲れ・怖さ
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勉強や友人関係のつまずき
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「どうせ自分なんて」という自己評価の低下
など、さまざまな感情が渦巻いていることが少なくありません。
◆ 親の中に浮かびやすい2つの思い
そんな子どもを前にすると、多くの親御さんは同時に、こんな2つの思いを抱えます。
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① 子どもの気持ちを分かってあげたい
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「つらいのは本当なんだろうな」
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「無理やり連れて行くのはかわいそう」
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② でも、このままでいいのか不安になる
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「ずっと休ませていて、本当に大丈夫?」
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「ゲーム三昧で生活リズムが崩れて、将来困らないだろうか」
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この「①共感したい」と「②将来が心配」という2つの気持ちがぶつかり合うと、
親のこころも疲れ、迷いが深くなっていきます。
2. 「子どもの気持ちを尊重したい」と「でもこれでいいの?」のあいだで揺れる理由
ここ数年、
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「子どもの意思を尊重する」
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「気持ちに寄り添う子育て」
というキーワードが、教育や子育ての世界でよく語られるようになりました。
◆ 背景にある大きな流れ
この考え方の背景には、たとえば次のような変化があります。
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児童の権利条約などを通じて、子どもの「意見表明権」が重視されるようになった
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自尊感情や自己決定感が、精神的な健康の基盤になると多くの研究で示された
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不登校や情緒の問題の背景に、「気持ちを無視されてきた経験」があるケースが多い
つまり、
子どもの声に耳を傾けることは、
決して「甘やかし」ではなく、心の回復と成長の大前提
だと言えます。
一方で、現場の親や先生、支援者はこんな不安も抱えています。
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「全部希望を叶えていたら、社会に出たとき困らないかな」
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「嫌なことから逃げ続けるクセがついてしまわないか心配」
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「どこまで本人に任せて、どこから大人が線を引くべきなのか…」
この「尊重したい」と「心配」のあいだで揺れる感覚こそが、
今回のテーマの核心部分です。
3. 子どもの希望を尊重しつつ導くための3ステップ
私が現場の中でお伝えしているのは、
『「聴く」と「導く」を同時にあきらめない関わり』です。
そのための具体的なステップを、3つに整理してみます。
ステップ① 「本音を言えたこと」をまず評価する
最初の一歩は、とてもシンプルです。
「学校行きたくない」と、ちゃんと言えたことを評価する
ことです。
■ こんな声かけから始めてみる
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「行きたくないって、言葉にしてくれてありがとう」
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「つらい気持ちを、ちゃんと教えてくれてうれしいよ」
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「黙って我慢して倒れちゃうより、ずっといいよ」
たとえ親としては「どうしても休ませ続けるわけには…」と思っていても、
最初のひとこと目では“気持ちへの理解”を優先します。
これは、ゲーム・スマホの場面でも同じです。
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「ゲームしてるときが一番ホッとするんだね」
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「スマホいじってると、つらいこと忘れられるんだね」
と、一度「そう感じている事実」を受け止めることが、
その後の対話の土台になります。
ステップ② 「今ラク」と「将来ラク」を一緒に言葉にする
次のステップでは、時間軸を少し先に伸ばします。
■ 一緒に考えたい問い
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「今ラクな選び方と、将来ラクな選び方って、同じかな?それとも違うかな?」
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「もし半年後・1年後の自分がここに来たとしたら、今の自分にどんなアドバイスしそう?」
こう問いかけることで、
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「今この瞬間のつらさ」
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「少し先の自分の姿」
の両方を、子ども自身がゆっくり考え始めます。
■ 不登校の場面での対話の例
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「今は、学校を考えるだけでしんどいよね」
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「もし半年後の○○さんがここに来たとしたら、今のお休みをどう感じてるかな?」
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「“あのとき、少しずつ準備してくれて助かった”って思うかな?“もっと休ませてほしかった”って思うかな?」
■ ゲーム・スマホの場面での対話の例
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「ゲームしてるときだけは、嫌なことを忘れられるんだよね」
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「でも、やめようとしたときすごくイライラしたり、寝る時間が遅くなって困ることもあるよね」
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「“今楽しい”と“明日がラク”は、どんなバランスがいいと思う?」
このように、
「今を守るための希望」と
「未来を守るための選択」を、子ども自身と言葉にしていく
ことが大切です。
ステップ③ 最後の「安全の枠」は大人が引いてあげる
そして最後に、
「安全のライン」を決めるのは大人の役割
です。
ここでいう「安全」とは、
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心身の健康(睡眠・食事・体調)
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学校や社会とのつながり(完全な孤立を避ける)
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家族関係(暴力や暴言で破綻しない範囲)
などを含みます。
■ 一貫したルール=安心の枠
ルールを決めることは「支配」ではなく、
子どもにとっての「安心できる枠組み」をつくることです。
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「ゲームは夜◯時まで」
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「学校はまず週◯日は保健室からチャレンジする」
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「昼夜逆転になりそうなときは、親が声をかけて調整する」
など、家庭ごとに具体的なラインを設定します。
ポイントは、
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子どもの発達段階や特性に合わせる
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そのルールの「理由」をきちんと説明できる
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親の気分ではなく、一貫性をもって続ける
という3つです。
「あなたの希望を大事にしているからこそ、
将来のあなたが困らないように、この線だけは大人が引くね」
というメッセージを、じわじわと伝えていくイメージです。
4. 脳科学から見た「今の気持ちだけで決めてしまいやすい」理由
ここから少し、脳の話をします。
子どもと関わっていると、どうしても
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「なんで分かってくれないの?」
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「この先どうなるか、少し考えれば分かるはずなのに…」
と感じてしまう場面があります。
しかし、脳科学の研究では、
子どもの脳は、そもそも「先の見通し」や「ブレーキ」をかける機能が、まだ未熟
だということがはっきり示されています。
◆ 未成熟な「前頭前野」― ブレーキ役が育っている途中
判断・計画・抑制・見通しなどを担う「前頭前野」は、
思春期から青年期にかけて、ゆっくり発達していきます。
そのため子どもは、
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「今この瞬間の気持ち」に強く左右される
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「あとでどうなるか」を想像するのが苦手
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「嫌なことを避ける」選択を繰り返しやすい
という特徴を持っています。
これは「性格が弱い」「根性がない」からではなく、
脳の発達段階として自然な姿です。
◆ ゲーム・スマホと「報酬系」の関係
ゲームやSNS、動画視聴などは、
脳内の「報酬系」と呼ばれる回路(ドーパミンなど)を強く刺激します。
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短時間で「楽しい」「スッキリする」という感覚が得られる
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次の報酬(レベルアップ、通知、いいね)をすぐに欲しくなる
こうした刺激に対して、
「ちょっと待とう」「今日はこの辺でやめておこう」とブレーキをかけるには、
やはり前頭前野の働きが必要になります。
つまり、
「やめられない」のは意思の弱さではなく、脳の仕組みの影響を受けている部分も大きい
ということです。
だからこそ、子どもだけに任せるのではなく、
大人が一緒に“使い方のルール”を考える必要があるのです。
5. 心理学(自己決定理論)が教える“選ばせながら導く”関わり方
心理学の分野には、
「自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)」という考え方があります。
これは、
人が健やかに成長するために必要な3つの基本的欲求
を示した理論です。
◆ 自己決定理論が示す3つの基本欲求
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自律性(Autonomy)
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自分で選べている感覚
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「やらされている」より「自分で決めた」と感じられる状態
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有能感(Competence)
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「できた」「少し成長した」と感じられる感覚
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失敗ばかりではなく、適度な成功体験がある
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関係性(Relatedness)
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誰かとつながっている安心感
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分かってくれる人がいる、受け止めてくれる人がいるという感覚
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この3つが満たされやすい環境で、人は意欲を持ちやすくなります。
◆ 「全部大人が決める」も、「全部子どもに任せる」も、どちらも極端
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大人が一方的にすべて決めてしまうと…
→ 自律性が損なわれ、反発や無力感につながりやすくなります。 -
逆に、すべてを子どもの希望に任せてしまうと…
→ 失敗体験や混乱が増え、有能感も育ちにくくなります。
だからこそ、
「選択肢を提示したうえで、子どもに選ばせる」
「無理のないチャレンジを一緒に組み立てる」
という関わり方が重要になります。
◆ 不登校の場面での具体例
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「今週は、
①完全に休む
②保健室だけ行く
③午後の一時間だけ行く
の中から、一緒に選んでみようか」 -
「来週どうするかは、今週の感覚を聞きながら、また一緒に考えよう」
◆ ゲーム・スマホの場面での具体例
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「平日は◯時間、休日は◯時間までならOKにしようか」
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「テスト前の1週間だけ、時間を少しだけ短くしてみるチャレンジをしてみる?」
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「ゲームの前に、まずは宿題を◯分だけ一緒にやってみよう」
このように、
“選ばせながら導く”関わり方が、
自律性・有能感・関係性の3つを同時に支えていきます。
6. 本人の希望=本人の幸せとは限らないときにどうするか
支援の現場で難しいのは、
「本人の今の希望」と「本人の将来の幸せ」が、必ずしも一致しない
という場面です。
◆ よくある「行き詰まりのパターン」
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本人の希望を尊重し続けた結果…
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学校や社会との距離が広がり、孤立が深まってしまう
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昼夜逆転で生活リズムが崩れ、体調やこころの状態が悪化する
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家庭内での衝突が増え、親子関係が傷ついてしまう
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このようなとき、大人はどうすればよいのでしょうか。
◆ 「本人の今の希望」だけでなく、「将来の本人の視点」を一緒に想像する
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「今の○○くんの希望は、よく分かったよ」
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「もう少し先の○○くんは、どう思うかな?」
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半年後
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1年後
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高校生・大人になった自分
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「そのときの自分が、“あのときこうしてくれて助かった”と思える選び方って、どんな形だろう?」
という質問を、ゆっくり一緒に考えます。
◆ 大人の中で整理しておきたい視点
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「今の本人の気持ちを守ること」
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「将来の本人が社会で生きやすいようにすること」
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「家族全体が壊れないようにすること」
これらを、「どれかひとつだけ」ではなく、全体のバランスとして考えることが大切です。
そのうえで、
「このラインだけは、大人として守らせてほしい」
という最低限の枠を、
できるだけ丁寧に言葉にして伝えていきます。
7. 迷うことは、まっすぐ向き合っている証 ― 支援者・親へのメッセージ
ここまで読んでくださった方は、おそらく日々、
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子どもの気持ちに耳を澄まし
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将来を心配し
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どう関わるのが一番よいのか悩み続けている
そんな、真剣な大人だと思います。
私は診察室で、よくこんなお話をします。
「迷う」ということは、
子どものことを本気で大切に思っている証拠です。
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一方的に押し付けるだけなら、迷いは少ないかもしれません。
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逆に、完全に放り出してしまうなら、それも迷いは少ないかもしれません。
でも、
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子どもの声を聴きながら
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子どもの将来も見据えながら
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自分の気持ちや限界とも向き合いながら
それでも手を離さない大人は、どうしても「揺れ」や「葛藤」を抱えることになります。
その「揺らぎ」こそが、
子どもにとってのいちばんの安全基地になることも多いのです。
8. まとめ:完璧な答えより、「一緒に悩んでくれる大人」が子どもの力になる
最後に、ポイントを簡単にまとめます。
◆ 今日のブログのまとめ
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子どもが「学校行きたくない」「ゲーム・スマホをやめたくない」と言うとき、
そこにはリアルなつらさや不安が隠れていることが多い -
子どもの主体性や希望を尊重することは、心の回復と成長にとって非常に重要
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しかし、「本人の今の希望」と「将来の幸せ」がズレてしまうこともある
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そのとき大人にできるのは、
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本音を言えたことをしっかり評価する
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「今ラク」と「将来ラク」を一緒に言葉にする
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最低限の「安全の枠」は、大人が一貫して引いてあげる
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脳科学的には、
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子どもの前頭前野(ブレーキ役)はまだ発達途中
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ゲーム・スマホは報酬系を強く刺激し、「やめにくく」なりやすい
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心理学的には、
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自律性・有能感・関係性の3つを支える「選ばせながら導く」関わりが大切
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そして何よりも、
完璧な正解を出すことより、
子どもと一緒に悩み続けてくれる大人の存在そのものが、
子どもにとって何よりの支えになる
と、私は臨床の現場で感じています。
もし今、目の前の子どもの希望と、大人としての不安の間で揺れている方がいたら
その揺れを、「ダメな親だから」と責めずに、
「ここまで真剣に考えている自分」を、どうか少しだけねぎらってあげてください。
児童精神科医として、そんな大人の姿を、私は心から尊敬しています。
9. 参考文献・出典
※専門職や支援者の方向けに、本文の背景となっている主な文献を挙げておきます。
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Blakemore, S-J. (2012).
Development of the social brain in adolescence. Journal of the Royal Society of Medicine, 105(3), 111–116.
→ 思春期の社会脳・前頭前野の発達についての総説。思春期支援を考えるうえで土台になる論文です。 -
Casey, B. J., Jones, R. M., & Hare, T. A. (2008).
The adolescent brain. Annals of the New York Academy of Sciences, 1124(1), 111–126.
→ 衝動性や抑制機能の未熟さと、思春期脳の特徴についてのレビュー。 -
小泉英明(2022)
『脳の発達と教育』東京大学出版会
→ 小児期から思春期にかけての脳の成熟と、学習・行動との関連を分かりやすく解説した一冊。臨床のイメージ作りに役立ちます。 -
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000).
The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227–268.
→ 自己決定理論の基礎となる論文。自律性・有能感・関係性という3要素の整理がされています。 -
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017).
Self-Determination Theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. Guilford Press.
→ 自己決定理論の決定版的著書。動機づけや発達支援の実践を考える際の大きな枠組みになります。 -
渡部達也・佐藤達哉 編(2016)
『自己決定理論と教育・子育て支援』新曜社
→ 日本の教育・子育て支援の現場で、自己決定理論をどう活かすかを具体的に紹介した本。支援者の方にもおすすめです。
