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【児童精神科医が解説】自傷行為がある子の宿泊行事、どう判断すべきか?

[2025.04.20]

―校長先生に届けたい“安全”と“成長”の両立の視点―

こんにちは。
江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(児童精神科医・子どものこころ専門医)です。

小学校・中学校・高校などで生徒の宿泊行事(修学旅行や移動教室など)を企画する際、「この生徒を参加させて大丈夫だろうか…?」という判断に悩まれることがあると思います。

特に、リストカットなど自傷行為のある生徒については、
「行かせたい気持ちはあるが、事故やトラブルが起きたら責任が取れない」
「教員が24時間見ていられるわけではない。安全面が心配だ」
と不安を抱える校長先生や学年主任の方も多いのではないでしょうか。

このブログでは、児童精神科医の立場から、リストカットのある生徒を宿泊行事に参加させるかどうかを判断する際の視点や考え方をお伝えします。
医療・教育の現場で18年以上子どもたちと関わってきた立場として、実際の現場の悩みに応えられる内容を目指しています。

【目次】

  1. 「リストカットがある=宿泊行事は無理」ではない

  2. 自傷行為の本質とは? ― 死にたいのではなく、つらさの表現

  3. 行事の参加が子どもを支える“治療的な体験”になる

  4. 判断に必要な3つの軸:「医療」「本人の意志」「学校体制」

  5. 安全配慮としてできる工夫 ― 同行教員が知っておくべきこと

  6. 参加させない場合も、“孤立させない”工夫を

  7. 迷ったときは、“連携と対話”が鍵になります

  8. 校長先生にお伝えしたいこと ― 教育とケアの両立へ

  9. 参考文献、推薦図書

1. 「リストカットがある=宿泊行事は無理」ではない

多くの学校で、リストカットなどの自傷行為があると、宿泊行事への参加を“リスク管理”の観点から見送る判断がされがちです。
もちろん、教員の安全配慮や責任の重さを考えると、無理もない判断です。

ですが、児童精神科医の視点では、必ずしも「自傷行為=行事は不参加」とは限りません。

むしろ、適切な準備や支援体制が整っていれば、行事そのものが「生徒の社会的成長」「自己肯定感の回復」「孤立感の軽減」などに大きく寄与することがあります。

一律に線を引くのではなく、「どうすれば安全に参加できるか?」という“参加前提の視点”から考えることが、本人の人生にとっても、支援のチームにとっても大切なのです。

2. 自傷行為の本質とは?

― 死にたいのではなく、“心の痛み”の表現

「リストカット」と聞くと、「自殺したいのでは?」と不安に思われるかもしれません。
しかし臨床の現場では、多くの自傷行為が「死にたい」気持ちよりも、“つらさを何とか処理したい”という思いからくるものです。

よくある背景には…

  • 自分に自信がない

  • 家庭や学校で居場所がないと感じている

  • 怒りや悲しみをうまく出せない

  • 人とつながりたいが、うまくいかない

こうしたつらさを、「ことば」で表現できず、「痛み」で表現してしまうのが自傷行為です。

このような子どもたちに対して、「危ないから外す」「責任が取れないから関われない」とすると、“また自分は大切にされない存在なんだ”というメッセージになってしまうこともあるのです。

3. 行事の参加が、子どもにとっての“治療的な体験”になることも

児童精神科の現場では、行事の参加が子どもに以下のような影響をもたらすことを多く経験しています。

  • 「自分もみんなと同じように扱われた」という感覚が、自己肯定感を支える

  • 非日常の体験が、こころに新しい風を吹き込み、前向きな気持ちを生む

  • 信頼できる大人や友人と過ごす時間が、「つながり直し」のきっかけになる

中には、修学旅行に参加できたことで「自分にもできることがある」と感じ、その後の自傷が減っていったケースもあります。

もちろん、行事がすべての子にとってプラスになるとは限りません。
しかし、「行事が参加できるかどうか」は、“心の治療の一部”としても重要な意味を持つことがあるのです。

4. 判断に必要な「3つの軸」

― 医療、本人の意思、学校体制

実際に参加を検討する際には、以下の3点を慎重に確認することが大切です。

① 医療的判断(主治医の見解)

  • 主治医が「行事参加は可能」「特段の禁止事項はない」としているか。

  • 必要に応じて、学校側との情報共有の可否や、配慮点の確認。

② 本人の意志と状態

  • 本人が「行きたい」と思っているか。

  • 「家族と離れること」「他者と過ごすこと」などに不安が強すぎないか。

③ 学校の支援体制

  • 同行する教職員が、配慮すべき情報を把握しているか。

  • 事前のミーティングや準備が行われているか。

  • 夜間体制など、リスクに備える体制があるか。

この3つの軸がある程度そろっていれば、参加の方向で調整することは可能です。
「不安があるからやめておく」ではなく、「どこに不安があり、どうすれば軽減できるか?」をチームで考えていきましょう。

5. 安全配慮としてできる工夫

― 現場でよく行われている対策例

宿泊行事でのリスクはゼロにはできませんが、“過度に見張る”のではなく、“必要な支えを丁寧に設計する”ことが大切です。

具体的な工夫として、以下のような対応があります:

  • 刃物・鋭利物の持ち物制限(カッターやハサミは教員が管理)

  • 夜間は教員と同室、もしくは近い部屋に配置

  • 同行教員に、本人の状態とサイン(不安時など)を共有

  • 「困ったときに相談できる大人」を事前に本人と決めておく

  • 緊急時の医療機関・対応フローの明確化

  • 保護者への緊急連絡先の確保、宿泊先へのお迎えの確保 必要であれば、宿泊先の近くに保護者が待機してもらう

「監視」ではなく、「安心できる見守り」があることで、本人も安心して参加できる環境になります。

6. 参加させない場合も、“孤立させない”工夫を

医療的理由や本人の強い不安などで、やむを得ず参加を見送る場合もあるでしょう。
その場合に大切なのは、①「あなたを排除したわけではない」というメッセージを届け続けること ②本人の納得感が大切です。

たとえば:

  • 学校内での“代替プログラム”を提案(校外学習、料理、ビデオ会など)

  • 友人・先生からの“お土産話”を共有する場をつくる

“排除”ではなく、“配慮と尊重”の結果としての選択であることを、本人とクラスに伝えていくことが、長期的な信頼関係に繋がります。

7. 迷ったときは、“連携と対話”が鍵になります

校長先生や担任の先生だけで判断するのは、現実的にも精神的にも負担が大きいものです。
迷ったときこそ、主治医・スクールカウンセラー・養護教諭・保護者・本人などを含めた「チーム」での対話と連携」が大切です。

児童精神科では、行事参加に関する「支援のポイント」なども作成することも可能かもしれません。
「悩んでいるけど、どう進めていいか分からない…」というときには、専門家に相談することも大切です

8. 校長先生にお伝えしたいこと

― 教育とケアの両立へ

学校には、「すべての子どもに、等しく学びと経験の機会を届ける」という大切な役割があります。
その一方で、「子どもの命と安全を守る」という責任もあります。

だからこそ、難しい判断を前にして迷うのは当然のことです。

ですが、“リスクを避けるための排除”ではなく、“リスクを減らしながら、できる方法を探る”という視点を、ぜひ大切にしていただきたいと思います。

子どもたちは、行事のたびに大きく成長します。
その機会を失わずに済むように、大人たちが手を取り合って、「安全」と「経験」の両方を支える選択肢を、これからも一緒に模索していければ幸いです。

9,参考文献、推薦図書

1. 『学校における子どもの自殺予防の手引き』

  • 発行:文部科学省(2023年改訂版)

  • 概要:学校での自傷・自殺リスクのある児童生徒への対応の基本姿勢、連携の在り方が記されている。

2. 『自殺予防のための学校教職員向け対応ガイドライン』

  • 発行:東京都教育委員会(監修:都立精神保健福祉センター)

  • 概要:宿泊行事や修学旅行前後の注意点、リスク評価のポイントなども含まれている。

3. 『思春期の自傷行為:ガイドラインと臨床実践』

  • 編著:日本精神神経学会自傷行為委員会(2020)

  • 概要:医療・教育・福祉が連携するための方針と対応例。宿泊行事やチーム支援のケース紹介あり。

4. 『養護教諭のための メンタルヘルス対応ハンドブック』

  • 著者:村田光範・横田俊一郎 編

  • 出版社:日本看護協会出版会

  • 概要:学校行事、外泊や修学旅行における留意点を含め、具体的な対処方法が整理されている。

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