ゲーム・スマホ依存の理解と対応法を脳科学と心理学から読み解く ― なぜやめられないのか?児童精神科医が解説
こんにちは。
江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック、院長の三木敏功(児童精神科医 子どものこころ専門医)です。
お子さんがスマホやゲームに夢中で、言っても聞かない…。
そんな悩みを持つ親御さんへ。この記事では、ゲーム・スマホ依存の“なぜやめられないか”を脳科学と心理学から解き明かし、今日からできる対応策をご紹介します。
【目次】
- 現代の子どもたちとデジタル依存の実態
- スマホやゲームが脳に与える影響
- なぜやめられない?― ドーパミンと報酬回路
- 心理的背景:「現実逃避」と「承認欲求」
- 親ができる7つの対応策
- 親がやってはいけない関わり方
- 年齢別ネット・ゲーム使用時間の目安
- ゲーム・ネット依存と薬物療法
- 心のSOSを見逃さない
- ゲーム・スマホ依存の専門医療機関リスト
- まとめ:取り上げるより、一緒に考える支援を
1. 現代の子どもたちと「デジタル依存」の現実
2020年代に入り、スマートフォン・タブレット・ゲーム機は生活の一部となり、学習や連絡手段としても必要不可欠な存在になりました。
その一方で、以下のような問題も深刻化しています。
• 昼夜逆転、朝起きられない
• 家族との会話が激減
• 学校に行けない・宿題をしない
• ゲームの課金トラブル
• 感情の爆発(暴言・暴力)
厚生労働省の調査によれば、スマホやゲームの「過剰使用」により、日常生活に支障をきたす子どもや「インターネット依存症」と診断されるケースは年々増加しております。
ゲーム依存の現状
長崎大学の研究によると、長崎県内の小学生から高校生までの児童・生徒4,048名を対象にした調査で、約7%がゲーム依存症の可能性があるとされています。具体的には、小学生で7.3%、中学生で7.5%、高校生で6.1%が該当しました。依存傾向のある子どもたちは、ゲームに費やす時間や金額が多いだけでなく、不登校や情緒・行動の問題、インターネット依存などの課題を抱えていることが明らかになっています。
スマートフォン依存の傾向
MM総研の調査によれば、5~17歳の子どものスマートフォン所有率は47.9%であり、週あたりの平均利用時間は1,219分(約20時間)に達しています。特に12歳では所有率が60.9%と高く、小学生から中学生への進学時期にスマートフォンを持つ子どもが増加する傾向が見られます。
また、別の調査では、10代の93.4%が「気が付くとスマホに没頭し、時間を忘れていることがある」と回答しており、若年層のスマホ依存が深刻化していることが示されています。
ネット依存の広がり
厚生労働省の研究班によると、2017年時点で中高生の約12~16%にあたる93万人がネット依存の疑いがあるとされています。これは2012年の調査時の51万人から倍近く増加しており、スマートフォンやSNSの普及が背景にあると考えられています。さらに、予備軍を含めると254万人に上り、中高生の半数近くがネットの過剰使用による影響を受けている可能性があります。
2. スマホやゲームが脳に与える影響
人間の脳は、「刺激」によって学習し、行動を強化していく仕組みになっています。
スマホやゲームは、まさにこの「刺激のかたまり」です。
• ゲームでは、得点、報酬、レベルアップなど“達成感”が短時間で得られます
• SNSでは、「いいね」や通知音で“承認欲求”が瞬時に満たされます
このような環境は、子どもの脳にとっては非常に魅力的であり、強い“習慣化”を促します。
特に、発達途上にある子どもの脳は、大人よりも刺激に敏感で、自己コントロール力(前頭前野)がまだ未熟なため、依存しやすい状態にあります。
そして、ゲームを長時間プレイすると、以下のような変化が起こる可能性はあります:
- 報酬系(ドーパミン回路)の過活性化
- 前頭前野の“抑制力”が一時的に低下(自己制御の困難)
- 視覚や操作に関わる神経系の一時的な興奮
→本当に注意すべきは「生活全体が崩れる」こと
もっとも注意すべきは、以下のような生活機能の崩れ”です:
- 昼夜逆転
- 食事をとらない
- 家族との会話がない
- 宿題や学校が手につかない
- スマホがないと激しく不安になる
これらが続くと、脳や身体への影響よりも先に、心の安定や社会生活能力が損なわれていくことが深刻な問題になります。
しっかりネット・ゲーム関連のデジタル機器から離れ、休息をとり、睡眠・食事・対人交流が保たれていれば、こうした状態は自然と回復していきます。
3. やめられない仕組み ― ドーパミンと報酬回路
スマホやゲームが「やめられない」のは、脳内の“報酬系”が関与しているからです。
● ドーパミンの働き
スマホを見たとき、ゲームで勝ったとき、通知が鳴ったとき
これらの瞬間に、脳内で「ドーパミン」が放出されます。
ドーパミンは「快感」や「やる気」に関わる神経伝達物質であり、報酬に反応して脳を“やみつき”にします。
● 繰り返しが中毒をつくる
この快感が繰り返されると、「もっとやりたい」という強化が起こり、習慣から依存に移行していきます。
• 最初は短時間だったのに、気づけば長時間プレイ
• やめようとしてもイライラ・焦燥感が出てしまう
これが「脳科学的な依存状態」です。
4. 心理学から見る「現実逃避」と「承認欲求」
依存状態の子どもには、心理的な背景があることも多く見られます。
● ゲームは“居場所”になっている
学校での人間関係、成績のプレッシャー、家庭内の不和…。
現実がつらいと、子どもは“仮想空間”に安らぎを求めます。
ゲームやSNSは、ありのままの自分でも受け入れてくれる“逃げ場”であり、“つながり”です。
● SNSは“承認”のための戦場
特に思春期の子どもにとって、SNSでの「いいね」や反応は、自尊心の源です。
現実で承認されないと、「ネットの中でしか自分の価値がない」と錯覚してしまうこともあります。
このように、単なる“遊び”や“楽しみ”ではなく、精神的なニーズの補完装置になっていることも少なくありません。
5. 親ができる7つの対応策
① 「やめられない脳」の仕組みを理解する
まず大前提として、「依存=本人の甘え」ではありません。
これは脳の“報酬系”の習慣化によるものであり、まるでスイーツやカフェイン、ギャンブルと同じく「一度快感を覚えると、もっと欲しくなる」という構造です。
特に子どもの脳は、自己制御を担う前頭前野がまだ未成熟で、「今この瞬間の快感」に強く引きずられます。
親がこのメカニズムを理解することで、「またやってる!」「なんでやめられないの!?」というイライラが少しやわらぎます。
知ることは、叱る回数を減らすことにつながります。
② 「使用ルール」を一方的に決めない
ありがちなのは、「1日1時間ね!」「夜8時以降は禁止!」と親が一方的にルールを決めて、子どもが反発してしまうケース。
このルールは、“話し合い”によって合意形成されることが大切です。
たとえば、
• 「今の使い方で困ってることってある?」
• 「1日どのくらいなら満足できる?」
• 「寝る時間がずれると朝困るよね。何時までがベストだと思う?」
といった対話を通じて、“子どもの意見を尊重したうえでの約束”にすると、守ろうとする意欲が生まれやすくなります。
これを「共同ルール化」と呼び、依存傾向のある子に特に有効です。
③ 使用時間の“見える化”をする
スマホやタブレットには、使用時間を記録する「スクリーンタイム」などの機能があります。
これを罰”としてではなく、自己管理のためのツールとして活用していくのがポイントです。
たとえば:
• 「今日はゲーム何分やった?」
• 「思ってたより長く使ってたかも?」
• 「週末だけ少し長くしてもいい?」
と、一緒に記録を確認するだけでも、「使いすぎてるかもしれない」という内省のきっかけになります。
また、グラフや時間表示などの“可視化”は、子どもにもわかりやすく、行動変容の第一歩になります。
④ “楽しさの代替”を意識する
スマホやゲームは、単なる暇つぶしではなく、楽しい・夢中になれる・達成感を得られる存在です。
それを取り上げて「じゃあ本読んでなさい」と言っても、代替にはなりません。
重要なのは、“心が満たされる別の体験”を用意してあげること。
たとえば:
• スポーツや外遊び(身体感覚を使う)
• 料理やDIY(達成感がある)
• ボードゲームやカード(親子の対話が生まれる)
• 動物とふれあう体験(癒しと責任感)
子どもによって好みはさまざまですが、「デジタル以外にも楽しい世界がある」と感じられる経験の積み重ねが、依存からの脱却につながります。
⑤ 自尊感情を育てる関わりを
ゲームの世界では、努力が“すぐに結果”として現れます。レベルアップ、勝利、スキル獲得…。
一方、現実の世界では、「頑張っても結果が出ない」「何をやっても叱られる」ことが少なくありません。
その結果、子どもが「現実世界より、ゲームの中のほうが“自分らしくいられる”」と感じてしまうことも。
親の役割は、現実の中でも「できたね」「頑張ってたね」と認めてあげることです。
• 小さな行動(片づけ、起きる、手伝い)でもOK
• 「やめようとしてる気持ちが伝わってきたよ」とプロセスを褒める
• 点数や結果よりも、“取り組み方”や“工夫”に目を向ける
こうした声かけを日常的に続けることで、「ゲームがなくても、自分には価値がある」という感覚が育っていきます。
⑥ 親も“デジタルとの距離感”を見直す
子どもにばかり「やめなさい」と言っていても、親自身がスマホを常に見ていたり、テレビをつけっぱなしだったりすれば、説得力がありません。
家庭全体で、「食事中はスマホなし」「寝る1時間前はデジタルオフ」など、“みんなで守るルール”を決めていくと、自然な流れで子どもも変化しやすくなります。
また、親自身がスマホを置いて子どもと目を合わせて話す時間を増やすことも、信頼関係の土台になります。
⑦ 小さな変化を認めて、信頼を築く
依存傾向がある子どもにとって、「自分でやめる」ことは、簡単なことではありません。
でも、「昨日より10分早く切り上げた」「自分から“やめるよ”と言えた」などの小さな行動を見逃さずに、
• 「お!自分でやめたんだ、すごいね!」
• 「昨日より早く片づけてくれて助かったよ」
• 「やめるの悩んでたけど、頑張ったね」
といった具体的であたたかい声かけをすることが大切です。
叱られるより、認められた経験の積み重ねこそが、「自分でコントロールできる自信」へとつながっていきます。
6. 親がやってはいけない関わり方 ― 逆効果になる対応とは?
スマホやゲーム依存の問題に直面すると、親としては「どうにかしなきゃ」という気持ちでいっぱいになります。
しかし、善意からの対応が、実は依存を強めたり、親子関係を悪化させたりすることもあるのです。
ここでは、実際によく見られる“NG対応”と、その背景、代わりに取るべき対応について解説します。
① 一方的に取り上げる・没収する
「もう我慢できない!今すぐ取り上げる!」
「スマホ禁止、ゲーム機は隠します!」
このような“強制的な遮断”は、一見効果的に見えても、以下のような副作用を生みます。
- 激しい反発や暴力行動(特に思春期の男児)
- 信頼関係の崩壊(「親はわかってくれない」)
- 隠れて使う・依存の隠蔽(部屋にこもる・夜中に起きる)
- “支配された”という無力感(自立に向けた力が育たない)
特に脳の発達段階では「コントロールされること」に強い抵抗感があるため、力で制限しすぎると、反動でさらに依存が強くなることもあります。
→代わりに
「あなたのことを心配してる。一緒に使い方を考えたい」と、共に考える姿勢を伝えることが重要です。
② 長時間の説教・感情的な叱責
「またやってるの!何度言ったらわかるの!」
「将来どうなるか考えたことあるの!?こんなんじゃダメな人間になるよ!」
こうした感情的な怒りや説教モードは、本人の心をシャットダウンさせてしまいます。
- 子どもは「内容」よりも「トーン(音)」を敏感に受け取る
- 長すぎる説教は、脳の“扁桃体”を過活動にし、記憶が残りにくい
- 「責められている」と感じると、防衛反応が強くなる(逃避、反発)
→代わりに
「どうしてそうなったのか、あなたの気持ちも知りたい」
「親も不安で、ちょっと言いすぎたかもしれないね」と、気持ちの整理と対話モードへの切り替えが有効です。
③ 他人と比較する
「○○ちゃんは、もうスマホやめられたんだって」
「お兄ちゃんはこんなことなかったよ」
「同級生はもっとちゃんとしてるよ」
このような他者との比較は、子どもの自己肯定感を大きく下げる要因になります。
- 自分を「劣っている存在」と感じ、さらに現実逃避に向かう
- 親に対して“理解されない存在”と感じ、心を閉ざす
- 「結局、自分は期待されていない」と無力感に陥る
→代わりに
「あなたなりに頑張ってること、ちゃんと見てるよ」
「今できてることから少しずつやっていこう」と、“比較”ではなく“成長のプロセス”に目を向ける関わりが大切です。
④ 放置・諦め
「もう何言っても無駄だから好きにすれば」
「勉強しないなら、知らないよ。将来どうなっても自業自得」
親が疲れ切って、あえて関与をやめてしまうこともあります。
しかし、これは子どもにとって「自分は見捨てられた」という深い孤独感を残します。
- 対話のチャンスが失われる
- 問題行動がエスカレートする(夜更かし、課金、暴力)
- 本人の中で「どうせ何やってもダメ」という無気力が進む
→代わりに
「うまくいかないときもあるけど、あなたのことは見てるよ」
「一緒に悩んでいきたいと思ってる」と、“諦めていない”というメッセージを丁寧に届けることが、回復の一歩になります。
⑤ 自分を責めすぎる
「私の育て方が悪かったから…」
「もっと早く気づいてあげられれば…」
親が自責の念にとらわれてしまうと、支援するエネルギーが枯渇してしまいます。
もちろん、親の対応が影響することはありますが、依存の問題は複雑で多因子的です。
家庭・学校・社会・脳の発達など、さまざまな要因が絡み合って起きるものです。
→代わりに
「ここからどう変わっていくかが大事」
「今、できることを一緒にやっていこう」と、“未来志向”に切り替える視点を持つことが大切です。
まとめ:関係を壊すのではなく、支える関わりへ
ゲーム・スマホ依存の背景には、脳の特性、心の揺らぎ、家庭の空気など、さまざまな要因が複雑に絡んでいます。
正解のない子育てだからこそ、親の焦りや不安が表に出てしまうのは自然なことです。
しかし、「どうすればこの子の心に届くか」という視点に立つと、対話の扉が開く瞬間が生まれてきます。
怒りそうになったら、ひと呼吸おいて
「この子は、どんな気持ちでこれをやっているんだろう?」
と問い直すことから、関係の修復が始まります。
7. 年齢に合わせたネット・ゲーム使用時間の目安とは?
― 脳の発達段階に応じた「適切な距離感」を考える
「1日何時間までなら大丈夫なんですか?」
「この年齢でゲームはどこまで許すべき?」
多くの保護者が悩むこの問いに対して、児童精神科医としての立場から、脳科学・心理学・国際的なガイドラインを参考にしながら目安を解説します。
1)幼児(0〜5歳):基本的に「ゼロ推奨」
▶︎ 目安:
- 2歳未満:スクリーンタイムは基本的に不要です。動画やアプリを見るよりも、顔を見ながらのやりとりや、手や体を使った遊びの方が脳の発達には圧倒的に有益です。
- 2歳以上:1日1時間未満(親と一緒に見る)。必ず親子で一緒に視聴し、内容について話し合ったり、問いかけたりする「対話的な時間」として活用することが重要です。
▶︎ 理由:
- この時期の脳は“実体験”と“五感”によって発達します。
- スマホやタブレットの受動的な刺激は、言語・運動・情緒の発達に悪影響を与える可能性があります。
▶︎ どうすれば?
- 「静かにしてほしいから動画」は避け、絵本・会話・手遊びで代替
- 見せる場合は親が隣に座って「いっしょに楽しむ姿勢」が重要
2)小学校低学年(6〜8歳):1日30〜60分以内
▶︎ 目安:
- ゲームや動画:30分〜1時間以内
- 時間帯:夕食後〜就寝の1時間前までに終了
▶︎ 理由:
- 自制心や時間感覚は未熟で、「やめ時」がわかりづらい年齢
- 睡眠・学習・家族との交流時間を優先することが脳の育ちに不可欠
▶︎ 注意ポイント:
- ルールは「家族で決めたもの」として共有
- 親がタイマーを使って“時間の見える化”をサポート
3)小学校高学年(9〜12歳):1〜2時間以内
▶︎ 目安:
- 学校がある日は最大1.5時間まで
- 休日は2時間まで(分割もOK)
▶︎ 理由:
- 遊びと勉強、家庭の手伝い、睡眠など“生活のバランス”を学ぶ時期
- 友達とのオンライン交流も始まり、「使い方」を学ぶ教育が必要
▶︎ ポイント:
- 「使ってよい時間」よりも「やめる時間」を決める
- 親子で一緒に“振り返り”の時間をつくり、「今日はどうだった?」と対話するのが効果的
4)中学生(13〜15歳):1.5〜2時間が理想
▶︎ 目安:
- 平日:1〜2時間以内
- 休日:2〜3時間まで(時間帯に注意)
▶︎ 理由:
- 思春期特有の「感情の揺れ」と「睡眠の質の低下」が起きやすい
- 特にスマホ使用は“夜の刺激”によりメラトニンの分泌が減少し、慢性的な睡眠不足につながりやすい
▶︎ おすすめ対応:
- 「スマホはリビングで充電・就寝時は部屋に持ち込まない」ルール
- 「ゲームは○時までに終わる」という時間設定の方が実効性あり
- 勉強後に短時間プレイするなど、ご褒美制との併用も有効
5)高校生(16歳以上):自律を支えるサポートへ
▶︎ 目安:
- 自主的な管理を尊重しつつ、2時間以内を目安に
- 睡眠・食事・学業に支障が出ていなければ、多少の柔軟性もOK
▶︎ 理由:
- 前頭前野が発達し始め、自己コントロール力が伸びる時期
- 一方で、“過剰なストレス”や“孤独”をゲームやSNSで紛らわす子も多い
▶︎ 注意点:
- 使用内容(ゲームの種類・SNSでの交友関係)を把握しておくこと
- トラブル(誹謗中傷、課金、夜更かしなど)の芽は放置せず、早期の対話で対応
まとめ:時間より「関係性」と「使い方」を重視しよう
時間制限は“きっかけ”にすぎません。
最も大切なのは、親子の対話と信頼関係のなかで、使い方の価値観を育てていくことです。
- 「何を見てたの?」「楽しかった?」と関心を持つ
- 「このゲームでどんなところが面白いの?」と一緒に語る
- 「どうすれば健康的な使い方になるか」を共に考える
ルールは「縛り」ではなく、「自分を守る習慣」です。
子どもが“納得感”を持って使えるよう、大人が伴走していきましょう。
8.ゲーム・ネット依存と「こころの薬物療法」について
ゲームやネット依存の治療というと、多くの保護者がまず思い浮かべるのは「ルールづくり」や「行動制限」かもしれません。
しかし、児童精神科の臨床現場では、それだけではうまくいかないケースがあるのも事実です。
そのようなとき、必要に応じて「薬物療法」が使われることがあります。
ただし、「依存を薬で治す」という単純なものではありません。
1.薬物療法が検討されるのはどんなとき?
以下のような状況が見られる場合、慎重に薬の使用を検討します。
- 強い興奮や衝動性で家庭内暴力や癇癪が止まらない
- ゲームを制限されると過度な不安・パニックが起きる
- ゲーム以外に興味が持てず、うつ状態のように無気力になる
- 不登校・昼夜逆転・食事拒否など、生活機能が大きく崩れている
- ADHDやうつ病、不安障害などの背景疾患が明らかである
このような場合、依存そのものよりも、根底にある「脳と心の不安定さ」へのアプローチとして、薬が選択肢になるのです。
2.どんな薬が使われるの?
依存治療に使われる薬には、依存を直接「治す薬」ではなく、本人の感情や行動を落ち着かせたり、集中力や意欲をサポートしたりするものが使われます。
必要な時期に、必要最低限の量を、医師の管理下で使用する薬は、回復を促す“きっかけ”になることが多いのです。
そんな時には、薬のサポートで“心の安定土台”を整えてあげることが、行動療法や生活改善に取り組むための前提になります。
3.薬物治療は、多角的支援の中での一つの選択肢
「今のこの子に必要な支援は何か?」をチームで考え、前向きに整える一つの手段です。
もちろん薬は万能ではありません。
だからこそ、薬物療法と並行して、
- 親子の対話の工夫
- 学校との連携
- 行動面のルールづくり
- 心理カウンセリングや福祉的支援の活用
といった多角的な支援の中で、バランスよく位置づけていくことが重要です。
4.最後に:薬は「きっかけ」、支援は「継続」が大切
薬は、行動変容の“きっかけ”にはなっても、“解決”そのものにはなりません。
大切なのは、薬によって落ち着いた状態を「本人の気づき」や「関係性の修復」につなげることです。
そのためには、専門医との信頼関係と、家庭・学校・地域の支援チームの力が欠かせません。
9. 依存の背景にある“心のSOS”を見逃さない
スマホ・ゲーム依存の奥には、さまざまな「心の問題」が隠れていることがあります。
- 発達障害
- 不登校
- 家庭内のストレス
- 不安、絶望感
- 承認欲求の枯渇
- 自尊心の著しい低下
- 社会的孤立
- トラウマ体験
これらは“依存”という形で表に出ている二次的な現れです。
表面的な行動だけで判断せず、子どもの内側にある“メッセージ”に耳を傾けることが大切です
10. ゲーム・ネット依存の専門医療機関
ネット・ゲーム依存の治療一覧リスト
このリストは、依存治療て全国的に有名な久里浜医療センターのサイトから引用させて頂きました。各都道府県・政令指定市の精神保健福祉センターからの情報および各医療機関に行った調査結果を基に作成されています。また、本リストに記載を希望されない施設もありますので、一部の施設はこのリストに収載されていないことをご留意ください。
11. まとめ ― 「取り上げる」より「一緒に考える」支援を
ゲームやスマホの問題は、今やどの家庭にも起こりうる課題です。
でも、それは「問題」ではなく、子どもからの“心のメッセージ”かもしれません。
叱るより、対話を。
取り上げるより、一緒に考えることを。
そして何よりも大切なのは、
「この子は、きっとよくなっていける」
という親の信じる力であると私は考えています。
【参考文献、書籍】
- WHO(世界保健機関)
→ 5歳未満は1時間未満を推奨(2歳未満は原則ゼロ) - 日本小児科学会
→ 小中学生は「1日2時間以内」、就寝1時間前はスクリーンタイムを避けるべき - アメリカ小児科学会(AAP)
→ 「年齢に応じた“家族メディア計画”」を作成し、家庭に合わせた運用を推奨
