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起立性調節障害の理解と治療法-朝起きられない子どもたち-児童精神科医が解説

[2025.05.07]

 こんにちは。

江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック 院長の三木敏功(精神科専門医 児童精神科医)です。

今回は、小中学生から高校生にかけて多く見られる「起立性調節障害(OD)」について、児童精神科医の視点から詳しくご紹介します。

「朝起きられない」は病気かもしれません

「夜は元気なのに、朝になると起きられない」

「学校に行こうとすると気分が悪くなる」

「頭痛や吐き気を訴えるが、病院では異常なしと言われる」

こうした症状が続くお子さんを前に、「やる気の問題なのでは?」「怠けているだけ?」と戸惑い、不安を感じている保護者の方は少なくありません。

しかし、これらの症状には医学的な背景がある場合があります。

そのひとつが、「起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)」という、自律神経の働きの乱れによって引き起こされる病気です。

起立性調節障害とは?

起立性調節障害は、自律神経系の機能に異常が生じ、体位の変化に対して血圧や脈拍が適切に調節できなくなる状態を指します。

特に、睡眠中(横になっている状態)から立ち上がった際に、急激な血圧低下や心拍数の上昇が起こり、脳への血流が一時的に不足して、さまざまな不調が生じます。

この病気は、成長期の子どもに特有の一過性のものと誤解されがちですが、放置すると学業不振や不登校、さらにはうつ病などの二次的な問題につながることもあるため、早期の理解と対応がとても重要です。

発症しやすい時期と背景

起立性調節障害は、特に思春期前後(10〜17歳)に多く見られます。

日本では、中学生の約1割が症状を経験すると言われています。

背景には、次のような要因が挙げられます:

  • 成長期の身体変化(ホルモンバランスの変化)
  • 睡眠・食事の乱れ
  • 精神的ストレス(進学、友人関係、家庭の変化など)
  • 長時間のスマートフォン・ゲーム使用による昼夜逆転

また、性格傾向として「まじめ」「責任感が強い」「内向的で繊細な子ども」が発症しやすいとも言われています。

主な症状と特徴

以下は、起立性調節障害の代表的な症状です。

【身体的症状】

  • 起床時の倦怠感、頭痛、吐き気
  • 立ち上がるとめまいや立ちくらみ
  • 動悸、息切れ
  • 食欲不振、腹痛
  • 午前中に強く、午後から夕方にかけて改善することが多い

【生活上の影響】

  • 朝起きられず、登校が困難になる
  • 通学しても保健室で横になって過ごす
  • 成績の低下や授業の遅れに不安を抱える
  • 周囲から「怠けている」と誤解され、自己肯定感が低下する

これらの症状は、本人にとって非常につらいものでありながら、「見た目に異常がない」「午後は元気そうに見える」といった特徴から、周囲の理解を得にくいことが少なくありません。

一般的な診断の進め方

1. 詳細な問診

生活リズムや日中の活動状況、睡眠状況、学校生活の様子を詳しく確認します。心理的な背景やストレス要因についても丁寧に伺います。

2. チェックリストと評価スケール

起立性調節障害の診断に用いられる「ODスコア」「自律神経症状チェックリスト」などを使用します。

3. 必要に応じた自律神経機能検査

立ち上がり試験(寝た状態から立ち上がり、血圧・脈拍の変化を測定)や、起立試験(血圧変化を5分ごとに測定)などを行います。

治療と支援のポイント

起立性調節障害の治療では、単に症状を抑えるだけでなく、生活全体の見直しと再構築が重要です。

1. 生活リズムの安定

  • 決まった時間に寝起きする
  • 朝はカーテンを開け、日光を浴びる
  • 寝る前のスマホやゲームを控える

2. 水分と塩分の補給

  • 水分は1日1.5〜2リットルを目安に摂取
  • 味噌汁や梅干し、スポーツドリンクなどで塩分を補う

3. 薬物療法(必要な場合)

  • 昇圧剤(ミドドリンなど)
  • β遮断薬(心拍数や交感神経の調整)
  • 漢方薬(柴胡加竜骨牡蛎湯、補中益気湯など)

※薬物療法は、症状の程度や体質に応じて考えていきます。

4. 運動療法

  • 軽いストレッチやウォーキングで筋力をつける
  • 日常生活に“活動する時間”を少しずつ取り入れる

ご家庭・学校との連携がカギ

起立性調節障害は、医学的な治療だけでは十分に回復しにくい病気です。

もっとも大切なのは、周囲の大人が病気を正しく理解し、柔軟に対応することです。

たとえば…

  • 保護者:「登校できない朝」に無理に起こすのではなく、「体調に合わせて午後から登校できたらいいね」と寄り添う姿勢
  • 学校:「午前中は保健室、午後から教室」などの柔軟な時間割・出席認定
  • 担任やスクールカウンセラーとの定期的な情報共有

家庭・学校・医療がチームとなって子どもを支えることが、回復を大きく後押しします。

児童精神科・小児神経科の役割と専門性

起立性調節障害は、自律神経のバランス異常による身体症状(めまい・頭痛・倦怠感など)を中心としながらも、長期化することで心理的・社会的な影響も複雑に絡み合う病気です。

そのため、単に内科的に治療するだけでなく、脳・心・環境の相互作用を総合的に理解したアプローチが必要となります。

この点で、児童精神科・小児神経科は大きな役割を担っています。

児童精神科の視点:心と身体の橋渡し

児童精神科では、身体症状にとどまらず、「不登校」「親子関係の悩み」「二次的な抑うつ」「自尊心の低下」など、起立性調節障害の背後にある心理的な課題や、家庭・学校との関係性まで含めて総合的に評価します。

  • 学校や家庭におけるストレス源の特定
  • 発達特性(ADHD、ASDなど)の併存可能性
  • 不安・抑うつ症状の合併の有無
  • 二次障害(自信喪失、自己否定)への早期介入
  • 保護者支援(正しい理解と対応への助言)

必要に応じて、学校や教育委員会、福祉機関との連携・環境調整も行います。

小児神経科の視点:発達と神経機能の精査

一方、小児神経科では、ODの背景にある神経学的問題(てんかん、発作性疾患、発達性協調運動障害など)や、脳機能の発達に伴う問題を詳しく評価します。

  • 起立性低血圧や起立性頻脈症候群(POTS)の鑑別
  • 脳波・心電図を含む神経生理学的検査
  • 微細な運動や感覚の発達評価
  • 自律神経に影響を及ぼす神経疾患の除外

両者の連携が「正確な診断」と「最適な支援」につながる

実際の臨床では、児童精神科と小児神経科が協力することで、ODの背景にある問題の全体像が見えてくることが少なくありません。

  • 小児神経科:身体的検査と生理的評価を中心に
  • 児童精神科:環境・心理・発達・生活状況まで広く支援

当院では、児童精神科医としての専門性を活かしながら、必要に応じて小児神経科との連携もご案内しています。

最後に ― “本人のせい”にしないために

起立性調節障害は、身体の機能に由来する病気であり、本人の意思や努力だけでどうにかできるものではありません。

回復には時間がかかることもありますが、多くのケースでは、適切な診断と治療、そして環境調整によって徐々に改善が見込めます。

保護者や学校関係者の皆さまと連携しながら、お子さんが再び元気に学校生活を送れるよう全力でサポートいたします。

もし「もしかして…?」と感じられたら、一人で悩まず、ぜひ専門家にご相談ください。

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