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児童・思春期の精神科病棟の入院について

[2025.05.13]

こんにちは。江戸川篠崎こどもと大人のメンタルクリニック院長の三木敏功(児童・思春期精神科医)です。私はこれまで18年間、精神科の専門病院で児童・思春期の精神科入院治療に携わってきました。今回は「精神科病棟での入院」について、少し踏み込んでお話ししたいと思います。

入院が必要とされるケースとは?

「子どもが精神科に入院?」と驚かれる方も多いかもしれません。けれども、入院は命と安全を守るために選ばれる、非常に大切な治療の選択肢のひとつです。私たち専門医にとっても、入院は「最後のよりどころ」として慎重に検討されます。

入院が必要となるケースは、次のような状況です

  • 切迫した自殺願望や自殺未遂があり、命の危険がある場合

  • 摂食障害によって身体状態が急激に悪化している場合

  • 現実と区別のつかない幻覚・妄想により、日常生活が困難な場合

  • 情緒不安定や暴力的行動などにより、家庭や学校での生活が破綻している場合

これらはいずれも、外来での支援だけでは対応が難しいケースです。安全の確保や治療の必要性から、入院が検討されることになります。

入院には強制力を伴う制度もあります

精神科の入院には、本人の同意に基づく「任意入院」だけでなく、本人の同意が得られない場合でも実施可能な「医療保護入院」や「措置入院」といった制度があります。

たとえば医療保護入院は、保護者の同意と精神保健指定医の判断、そして行政の関与によって成立する入院です。子どもが入院を拒否していても、必要と認められれば適用されることがあります。

こうした入院では、治療上どうしても必要と判断された場合に限り、「隔離」や「身体拘束」といった強い行動制限が一時的に行われることもあります。これらは法律とガイドラインに則って、最小限の期間・範囲で行われます。

しかしながら、自由や人権に制限を加える以上、子どもの権利を常に尊重し、慎重な判断と丁寧な対応が求められます。私は入院治療に数多く関わってきましたが、精神科入院は決して「最初の選択」ではなく、「どうしても必要なときの最終手段」と捉えるべきだと考えています。

子どもへの説明と同意の重視

入院については、支援者とご家族と医療者だけで決めるのではなく、子ども本人にもきちんと説明し、できる限り理解と同意を得ることが重要です。

「どのような状態になったら入院が必要なのか?」「医療保護入院とはどういう制度なのか?」といった内容を、期間をあけながら繰り返し丁寧に説明していきます。たとえ消極的な同意であっても、本人が納得し、治療への参加意欲を持てるような関わりを目指します。

入院先で行われる治療について

児童・思春期の精神科病棟では、精神科医、看護師、公認心理師、作業療法士、教員など、多職種によるチーム医療が行われます。お子さんの状態に応じて、服薬治療、個別・集団面接、作業療法、学習支援などが行われ、生活リズムの安定も治療の大きな柱となります。院内学級のある病院もあり、学習の遅れに配慮した支援も受けられます。

入院期間は数週間から数か月にわたることもありますが、その目標は「家庭や学校に戻り、自分らしい生活を再び送れるようにすること」です。そのため、入院中から早い段階で、ご家族や学校、地域の機関と連携することもあります。退院後のさらなる病状回復のためにも、地域の医療機関(かかりつけ医、訪問看護等)、地域の教育機関(学校、教育相談室等)、地域の福祉機関(児童相談所、発達支援センター、子育て支援センター等)の入院中の協力が極めて重要になってきます。

当院のスタンス

当院では入院設備はありません。私は、極めて緊急度の高い場合を除いて、「子どもが希望しない限り、入院は最後まで避けたい」という立場で、できる限り外来での支援を模索します。もし入院が必要になったとしても、子ども自身が納得し、治療への参加意欲を持てるようになるまで、粘り強く関わる姿勢を大切にしています。

ご家族とも丁寧に話し合い、本人とともに「今、何が必要か」を考えながら、最善の道を一緒に探していきます。

最後に

子どもの心の不調に悩んでいるとき、ご家族が感じる不安や葛藤はとても大きなものです。一人でも多くのお子さんとご家族が、安心して治療に向き合えるよう、これからも丁寧な医療と温かな支援を続けていきたいと思います。

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